新境地を拓いた歴史ミステリー
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"人類史上屈指の天才"レオナルド・ダ・ヴィンチが怪事件に挑む歴史ミステリー。中世ヨーロッパの雰囲気と大掛かりなトリックは一見の価値ありだ。 |
2003年に刊行された
『聖遺の天使』は、15世紀のイタリア北部・湖水地方を舞台にした長編ミステリー。激しい嵐の夜、聖遺物――聖母子像を浮かばせる奇跡の香炉――があるという城館に聖職者が集められた。やがて主人の(磔を思わせる)変死体が発見され、闇の中に天使の姿が現れる。謎を解くためにミラノから派遣されたのは、あのレオナルド・ダ・ヴィンチだった。ダ・ヴィンチを探偵役に据える趣向、当時の文化や風俗などを織り込みつつ、大胆なトリックを炸裂させた本格ミステリーの野心作。物理トリックの愛好家にとっても必読の1冊だろう。
その続編
『旧宮殿にて』には同シリーズの短編が5本収録されている。ミラノ宰相ルドヴィコ・スフォルツァ、その愛妾チェチリア・ガッレラーニ――彼らの周りで謎が発生し、ダ・ヴィンチが解決するというパターンの連作だが、全編が1本のストーリーに収束していく構成は高く評価されるべきだろう。古い宮殿を舞台にした探偵譚にして、謎解きをスパイスにした歴史小説としても楽しめる重層的な物語なのだ。
天才少女の名推理を描く青春ミステリー
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記憶の欠落した「僕」との出逢いが、心を閉ざした天才少女を名探偵に変えた。シビアな推理と成長譚が楽しめる青春ミステリーの秀作。 |
著者の最新刊
『少女ノイズ』には、2006年から翌年にかけて発表された5編が収められている。大学生の「僕」こと高須賀克志は、特任准教授の依頼で予備校のアルバイトをすることになった。仕事内容は女子高生・斎宮瞑が面倒を起こさないように相手をするというもの。瞑は小学生時代の「僕」が遭遇した怪事件をあっさりと解決し、連続殺人の謎や少女たちの秘密を解き明かしていく。ここで注目すべきポイントは、本書が正統派の本格ミステリーであると同時に、ヒロインの成長と解放のプロセスを辿っていく青春小説でもあることだ。謎解きによって事態を変化させ、全編を通じて1本のストーリーを紡いでいく――この構成は
『旧宮殿にて』とも共通している。ライトノベル作家として敬遠していた人も、単に認知していなかった人も、これらの作品を読めば三雲岳斗が一流のミステリー作家だと実感できるはず。今後の活躍がますます楽しみな書き手なのである。
【関連サイト】
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G-Act Blog…三雲岳斗公式ブログ。新刊情報などが置かれています。