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ジョン・コリアの奇妙な味(2ページ目)

イギリスを代表する異色短編作家ジョン・コリア。その傑作群を束ねた日本オリジナル短編集が登場しました。

執筆者:福井 健太

代表的作品集『炎のなかの絵』

『炎のなかの絵』
早川書房刊〈異色作家短篇集〉第7巻。奇想とブラックユーモアの横溢する20編を収めた掛け値なしの名著である。
コリアの邦訳書は過半数が入手困難になっているが、代表的な短編は"現役"の2冊でほぼカバーできる。その2冊を簡単に紹介しよう。まず『炎のなかの絵』は〈異色作家短篇集〉の第7巻。もう少し詳しく言えば、1958年に〈異色作家短篇集(全18巻)〉の第6巻として上梓され、1974年の〈新版・異色作家短篇集(全12巻)〉の第6巻を経て、2005年に〈異色作家短篇集 新装版(全20巻)〉の第7巻に収められた日本オリジナル作品集である。「夢判断」「記念日の贈物」「ささやかな記念品」「ある湖の出来事」「旧友」「マドモアゼル・キキ」「スプリング熱」「クリスマスに帰る」「ロマンスはすたれない」「鋼鉄の猫」「カード占い」「雨の土曜日」「保険のかけ過ぎ」「ああ、大学」「死の天使」「ギャヴィン・オリアリー」「霧の季節」「死者の悪口を言うな」「炎のなかの絵」「少女」の全20編が収録されており、全編を通じて奇想とブラックユーモアをたっぷりと楽しめる。妻を殺した夫の悲喜劇「クリスマスに帰る」のような犯罪小説、貯金の9割を配偶者の保険金にあてた夫婦の運命を描く「保険のかけ過ぎ」、スターに恋をした蚤がヒッチハイクでハリウッドを目指す「ギャヴィン・オリアリー」――という具合に、内容は極めてバリエーションに富んでおり、とりわけ読書通を自負する人には強くお勧めしたい1冊なのだ。

『ナツメグの味』の奇妙な味

『ナツメグの味』
入手困難になっていた作品を中心に編まれた日本オリジナル短編集。残酷趣味とシニカルな笑いが凝縮された17編を存分に堪能できる。
2007年11月に刊行された『ナツメグの味』には全17編――「ナツメグの味」「特別配達」「異説アメリカの悲劇」「魔女の金」「猛禽」「だから、ビールジーなんていないんだ」「宵待草」「夜だ! 青春だ! パリだ! 見ろ、月も出てる!」「遅すぎた来訪」「葦毛の馬の美女」「瓶詰めパーティ」「頼みの綱」「悪魔に憑かれたアンジェラ」「地獄行き途中下車」「魔王とジョージとロージー」「ひめやかに甲虫は歩む」「船から落ちた男」が収められている。殺人容疑者の心理を鋭く綴った表題作のほか、サキの名作「スレドニ・ヴァシュタール」を思わせる「だから、ビールジーなんていないんだ」、瓶詰めの魔神に出逢った男の顛末「瓶詰めパーティ」、自殺した男の"幽霊"の冒険行「地獄行き途中下車」など、こちらも(当然)内容は多岐に渡っている。

著者の持ち味の一端を示すために、遺産目当てでおじを殺した甥の物語「異説アメリカの悲劇」の一節を引いてみよう。「哀れな若者はたちまち目の前でおのが腹をかっさばかれ、ひたすら目を白黒させるばかり」「ほほう、歳のわりにいきのいい膵臓じゃないか。こいつは衣装だんすの上だ。これはベッドの手すりにでもかけとけ」(和爾桃子訳)――極めて残酷な場面ではあるが、惚けた筆致は残虐さよりもユーモアを感じさせる。この"悪魔的な笑い"こそがコリアの最大の武器なのだ。必ずしも万人向けの作風ではないが、この独特なセンスに魅了される人は多いはず。そして"コリアの奇妙な味"には強い中毒性が宿っているのである。

【関連サイト】
異色作家短篇集…早川書房公式サイトの〈異色作家短篇集〉一覧です。
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