ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

バカミスキングの新境地

正統派の謎解きをしっかりと踏まえつつ、奇抜な趣向で読者を楽しませる名手・霞流一。その魅力を掘り下げてみましょう。

執筆者:福井 健太

霞流一の芸人魂

小説家は自分なりの作風を持つものだが、霞流一ほど作品のキャラが立っている書き手は珍しいだろう。高度な論理性とナンセンスを両立させた霞作品は、いわゆる「バカミス」として多くの読者を獲得している。基礎を固めてから新奇なパフォーマンスに挑むような、一流の芸人を思わせるサービス精神がそこには宿っているのである。

霞流一は1959年岡山県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、東宝に勤務するかたわら小説の投稿を開始し、1994年に『おなじ墓のムジナ』が第14回横溝正史ミステリ大賞に佳作入選。『フォックスの死劇』『オクトパスキラー8号』など、動物をモチーフにした作品群で人気を博し、異色の鉄道ミステリー『スティームタイガーの死走』は『このミステリーがすごい!』(2002年度版)の第4位にも選ばれている。今回はその代表的な作品を見ていくことにしよう。

奇想天外な列車ミステリー
『スティームタイガーの死走』

『スティームタイガーの死走』
幻の機関車を走らせるイベントの当日、出発駅で変死体が発見され、走行中の機関車が消失した。多彩なギミックが凝らされた異色の鉄道ミステリー。
まずはデビュー作『同じ墓のムジナ』――といきたいところだが、これは現在入手困難なので、第7長編『スティームタイガーの死走』から話を始めよう。玩具メーカー「コハダトーイ」の創業者・小羽田伝介は、戦時中に企画されて幻に終わった蒸気機関車C63を再現し、中央線を走らせるという宣伝プロジェクトを立ち上げた。計画は順調に進んだと思われたが、イベント当日に出発地点の東甲府駅で変死体が発見される。さらに走行中のC63が覆面男に乗っ取られ、線路上から忽然と姿を消してしまった……。人間消失、密室殺人、列車消失などを扱った本格ミステリーにして、斬新な鉄道マニア小説にして、大胆なオチが仕組まれた「騙し話」でもある良質のエンタテインメント。霞作品の入門編としても格好の1冊だろう。

次のページでも霞作品を御紹介します。
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