ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

密室王国への招待(2ページ目)

施錠された部屋で他殺体が発見される――そんな密室モノは本格ミステリーの王道。今回は密室づくしの超大作を御紹介します。

執筆者:福井 健太

ファンタジックな思考実験が楽しめる
〈三月宇佐見のお茶の会〉シリーズ

『アリア系銀河鉄道』
様々な異世界を訪れた宇佐見博士は、特殊なルールに則った奇妙な謎に直面する。本格ミステリーの新境地を拓いた大傑作。
柄刀一の著作はバラエティに富んでいるが、最大の成功作が〈三月宇佐見のお茶の会〉シリーズであることは間違いない。紅茶を飲むと異世界に飛ばされる――という特異体質の持ち主・宇佐見護博士は、多彩な異世界のルールに沿った異様な謎を解明していく。地の文が具現化する世界、ノアの方舟が実在する『創世記』の内部、精神世界、銀河鉄道などを舞台として、謎解きの面白さを抽出・結晶化させた実験的なシリーズ。第1作品集『アリア系銀河鉄道』と第2作品集『ゴーレムの檻』はいずれも5編を収録している。いわゆる現実性に縛られることなく、純粋な知的ゲームを意図しているだけに、リアリティや感情移入を求める読者には不向きかもしれない――が、波長の合う読者には極めて魅力的に感じられるはずだ。

ライト感覚で楽しめる
〈天才・龍之介がゆく!〉シリーズ

『殺意は砂糖の右側に』
知能指数190の天才青年・天地龍之介は名探偵でもあった。マニアならずとも手軽に楽しめる軽妙な本格ミステリーだ。
小笠原諸島から都会にやって来た青年・天地龍之介は、IQ190の頭脳と並外れた知識と微妙にズレた感性――そして天才的な推理力の持ち主だった。従兄弟の「ぼく」(=天地光章)などのキャラクターを巧みに描きつつ、骨太のロジックや奇妙な趣向を生かしているのが本シリーズの持ち味。ハードな謎解きを扱った作品もあれば、本自体に細工を施した怪作もあるという柔軟さが大きな魅力なのだ。本シリーズは現在までに9冊が刊行されているが、基本的には刊行順に読むことをお勧めしておこう。

もちろんシリーズ作品だけではなく、歴史ロマンに謎解きを絡めた『3000年の密室』や医療ミステリ『ifの迷宮』など、ノンシリーズ作品にも傑作は少なくない。現代の本格ミステリー界において、品質と執筆量を高いレベルで維持し続けている稀有な存在――それが柄刀一なのである。

【関連サイト】
光文社図書編集部…2004年に『fの魔弾』が刊行された際の著者インタビューです。
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