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密室王国への招待

施錠された部屋で他殺体が発見される――そんな密室モノは本格ミステリーの王道。今回は密室づくしの超大作を御紹介します。

執筆者:福井 健太

稀代のトリックメーカー
柄刀一のプロフィール

『密室キングダム』
伝説の奇術師が密室で殺された。執拗に密室殺人を繰り返す犯人の真意は? 多彩なトリックが詰め込まれた1700枚の超大作。
まずは著者について紹介しておこう。柄刀一は1959年北海道生まれ。公募アンソロジー〈本格推理〉シリーズへの参加を経て、1998年に鮎川哲也賞の最終候補作『3000年の密室』で本格的にデビュー。奇抜な着想とそれを小説化する手腕には定評があり、代表作に『アリア系銀河鉄道』『OZの迷宮』などがある。そんな著者の最新刊『密室キングダム』は、原稿用紙1700枚――ハードカバーで900ページを超える密室づくしの超大作だ。

最新長編『密室キングダム』の魅力

1988年夏、札幌――伝説のマジシャン・壇上のメフィストこと吝一郎は、11年ぶりの復帰公演を行っていた。事件はその最中に起こった。「舞台部屋」と呼ばれる広間で一郎の死体が発見されたのだ。一郎はドラキュラのように杭を打ち込まれ、現場の扉はしっかりと施錠されていた。部屋のガラス製品は持ち去られ、家財道具はことごとく動かされている。その謎も解けないうちに第二の事件が起こり、密室状態の図書室が発火するという怪異が発生。若き名探偵・南美希風が辿り着いた犯人の正体とは……?

本書には多くの密室が登場するが、そのトリックは早い段階で解明される。重要なのは物理的なトリックではなく、密室が作られた理由のほうだ。密室の謎はゴールではなく、新たな謎を生むための装置として機能している。なにしろ分量が多いだけに、伏線が回収されるクライマックスは魅力的だし、エンディングの余韻も奥の深さを感じさせる。密室ミステリーの歴史に刻まれるべき野心作なのである。

次のページでは他の柄刀作品を御紹介します。
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