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ポール・アルテの古風な世界(2ページ目)

降霊術と密室殺人、異様な死体、呪われた部屋――怪奇を解き明かす話は本格ミステリーの原型。そんな作風を現代に甦らせた異才ポール・アルテを御紹介します。

執筆者:福井 健太

下宿を舞台にした犯人探しと
シリーズ初の短編集

『カーテンの陰の死』
下宿に逃げ込んだ殺人犯、その玄関で起きた密室殺人。住人の中に潜む殺人犯の正体は? スリリングな謎解きが楽しめる1編。
第4作『カーテンの陰の死』でも著者らしい道具立てが使われている。頭皮を剥がされた刺殺体が発見され、殺人現場に居合わせたマージョリーは、犯人と同じ服装の人物が(偶然)自分の下宿に入るのを目撃した。犯人はこの下宿の住人だろうか――マージョリーがそう考えた矢先、住人が密室状態の玄関で刺殺される。捜査に乗り出したツイスト博士とハースト警部は、75年前のよく似た事件に着目するのだが……。状況とトリックに難点はあるものの、読者を引きつける設定の巧さは高く評価すべきだろう。

順序を繰り上げて刊行された『赤髯王の呪い』はツイスト博士の活躍する4編を収めた短編集で、表題作は1986年に55部限定で刊行された私家版。デビュー作よりも先に書かれていた作品だけに、多くのアイデアと衝動が詰め込まれた好編に仕上がっている。他の3編にはさほどのインパクトはないが、不可能犯罪を扱った軽めの短編としては及第点といえそうだ。

最高傑作の呼び名も高い
『狂人の部屋』がついに邦訳

『狂人の部屋』
100年前の怪異を再現するかのように、同じ部屋で不可解な墜落死が発生した。入り組んだ構成が魅惑的な謎を現出させる著者の代表作だ。
2007年6月に上梓された『狂人の部屋』は――かりに『赤い霧』を別格としても――正面から謎解きを扱った物語としては、邦訳されたアルテ作品のベストに違いない。大富豪ハリス・ソーンと結婚したセイラは、親族とともにロンドン郊外のハットン荘で暮らすことになるが、その屋敷には忌まわしい過去があった。約100年前にハリスの大叔父が部屋で変死したのである。やがてハリスが同じ部屋で転落死を遂げ、調べてみると――100年前と同じように――絨毯は水でぐっしょりと濡れていた。2つの事件には関連性があるのだろうか? 反復される不可解な死というモチーフは著者の得意技だが、多くの謎に納得のいく理由を用意し、魅惑的なシチュエーションを編み出した構成力は見事としか言いようがない。推理によって解決する怪奇小説を現代のフランスに甦らせた著者は、本作で格段のレベルアップを果たしている。その魅力は日本の読者にも存分に感じられるはずだ。

【関連サイト】
ハヤカワ・オンライン…アルテの作品を刊行している早川書房の公式サイト。新刊案内や刊行予定などを確認できます。
【編集部おすすめの購入サイト】
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