フランスミステリー界の異才
ポール・アルテの持ち味とは?
惨殺された夫人の幽霊が棲むという屋敷で、降霊術のさなかに密室殺人が発生した。名探偵ツイスト博士はこの謎をいかに解明するのか? |
ポール・アルテは1955年フランス生まれ。1987年のデビュー作『第四の扉』でコニャック・ミステリ大賞を獲得し、翌年には『赤い霧』で冒険小説大賞を受賞。現在までに30冊近い長編を上梓しており、その半分を犯罪学者アラン・ツイスト博士のシリーズが占めている。怪奇的な謎、不可能犯罪、クラシカルな名探偵などの要素を備えた作品群は、日本でも高い評価を受け、現在までに6冊(1冊は短編集)が邦訳されている。その内容をざっと御紹介しよう。
著者の名を高らしめた
最初期の3長編
10年前の事件を解決するため、男は故郷の地に帰ってきた。密室殺人と切り裂きジャックを結びつけ、意外な真相をスリリングに描く野心作。 |
続いて邦訳された『死が招く』ではミステリー作家の変死が描かれている。鍵の掛かった書斎で発見された死体は鍋に顔と腕を突っ込み、その手は銃を握り締めていた。死後1日が経っているにも関わらず、傍らの料理からは湯気が立ち上っていた。現場は被害者が構想中の小説『死が招く』と同じ状況だったのである。解決にはやや微妙な点もあるが、巧みな状況設定を生かした作品なのは確かだろう。『赤い霧』はツイスト博士の登場しないノンシリーズもの。新聞記者と名乗る男が帰郷し、10年前の密室殺人――娘の誕生日に手品を披露していた男が、カーテンで仕切られた部屋で背中を刺された事件――を再調査するが、そこで新たな事件が起こってしまう。切り裂きジャックが暗躍する19世紀末のロンドンを舞台に、歴史の謎と密室殺人を融合させた野心的な冒険小説である。
アルテの第4作から第6作は次のページで御紹介します。