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直木賞候補のミステリー作家たち(2ページ目)

第136回直木賞は惜しくも受賞作が出ませんでしたが、最終候補にはミステリー作家の名前が並んでいました。彼らの経歴を見てみましょう。

執筆者:福井 健太

ミステリー「も」書く実力派の
読者の胸を打つ物語

『四度目の氷河期』
思い込みの激しい少年ワタルは、父親のミイラに逢うために単身ロシアへと向かう。奇抜な設定を通じて少年の成長を綴った切ない物語だ
荻原浩は1956年埼玉県生まれ。広告製作会社、コピーライターを経て、1997年にユーモア小説『オロロ畑でつかまえて』で第10回小説すばる新人賞を受賞。『噂』『誘拐ラプソディー』などの野心的なミステリーを上梓し、ユーモアと"泣ける"感動をブレンドした作風が評判となった。2004年に刊行された『明日の記憶』は第18回山本周五郎賞にも選ばれている。今回の候補作『四度目の氷河期』は、田舎町で未婚の母と暮らし、自分はクロマニヨン人の子供だと信じることでアイデンティティを保っている少年ワタルの孤独な成長譚。ナンセンスな設定が物哀しさを醸し出す傑作である。

本格ミステリーの大御所が
人と人の繋がりを丹念に描く

『ニッポン硬貨の謎』
来日中の名探偵エラリー・クイーンとミステリ研究会員の小町奈々子が幼児連続殺害事件に挑む
池井戸潤や荻原浩に比べても、北村薫はさらにミステリー色の強い書き手といえるだろう。1949年に埼玉県で生まれ、国語教師を務めながらアンソロジーの編纂を手がけた後、1989年に連作長編『空飛ぶ馬』でデビュー。1991年に『夜の蝉』で第44回日本推理作家協会賞、2006年に『ニッポン硬貨の謎』で第6回本格ミステリ大賞を受賞。本格ミステリ作家クラブ設立時の発起人でもあり、2005年には会長に就任した。ジャンルに縛られない読書量とその批評には定評があり、様々な"物語"にこだわったエッセイとアンソロジーは高く評価されている。

これまでに『スキップ』『ターン』『語り女たち』が直木賞候補に選ばれており、同賞の候補は今回で4度目。『ひとがた流し』はミステリーではなく、女性の生と死を見つめた小説である。アナウンサーの千夏、物書きの牧子、写真家の妻である美々――彼女たちは高校時代からの友人で、牧子と美々は離婚経験者でもある。そんなある日、牧子とその娘・さやは千夏の様子がおかしいことに気付く。千夏は重い病に罹っていたのだ。限られた日々を過ごしていく千夏を中心に、3つの家族における"人と人の繋がり"を丹念に織り上げた物語。吟味された言葉でテンポ良く綴られる文章、モノが受け渡されることで章と語り手が切り替わる構成など、巧みな計算もまた著者のテクニックを感じさせる。

多彩なジャンルで活躍している彼らの作品は、たとえ直木賞に選ばれなくとも、それぞれに優れた小説に違いない。何かの受賞作だけではなく、候補作家(の作品群)をチェックしてみるのも、充実した読書ライフを送るための有効なコツなのである。

【関連サイト】
池井戸潤の銀行の歩き方…池井戸潤の公式サイト。作品リストと日記があります。

北村 薫の私設ファンサイトはこちらです。
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