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ビューティフルワールドへ!桜庭一樹特集

2006年の最後を締めくくるにふさわしい傑作長編が登場しました! 『赤朽葉(あかくちば)家の伝説』を読んで、年末年始は桜庭一樹ワールドに耽溺しましょう~。

執筆者:石井 千湖


2006年の最後を締めくくるにふさわしい傑作長編が登場しました! 『赤朽葉(あかくちば)家の伝説』を読んで、年末年始は桜庭一樹ワールドに耽溺しましょう~。

ようこそ、ビューティフルワールドへ『赤朽葉家の伝説』

赤朽葉家の伝説
祖母が見た空飛ぶ男の謎とは?
1953年から2010年代まで、山陰地方の旧家を舞台に女三代の人生を綴った大河小説。というと、昼ドラのような暑苦しいものを想像するかもしれませんが、『赤朽葉家の伝説』は、波乱万丈でありながら飄々としたユーモアも感じさせる作品です。赤朽葉家の女性たちから見た戦後の日本とは――。

本書は三部構成になっています。第一部は、祖母の万葉の物語。万葉はもともと、共同体に属さず山奥を放浪し、村で自殺者が出るとその死体をいずこかへ運び去る“辺境の人”の子。ある日、万葉は村に置き去りにされ、製鉄所で働く職工の家に引き取られます。物心ついた頃から未来を幻視する能力を持っていた万葉は、10歳のとき、空に浮かぶ男の姿を見る。当時はそれが何を意味するのかわからないまま、万葉は赤朽葉家に嫁ぎ、“千里眼奥様”と呼ばれるようになります。第二部では主役を万葉の長女・毛毬にバトンタッチ。暴走族として活躍(?)する少女時代から、漫画家として成功するまでを描きます。第三部の主人公は毛毬のひとり娘・瞳子。瞳子は万葉が見た空飛ぶ男の謎を解くのです。

印象に残るのは、やはり万葉の章。空飛ぶ男を見るところもそうですが、ヴィジュアルで思い浮かべると面白いのです。たとえば、万葉の夫・曜司に思いを寄せる使用人の真砂が、なぜか屋敷でストリーキングをする場面。しれっとした顔をして裸でうろつく女を想像すると怖いんだけど妙に可笑しい。また、万葉と幼なじみのみどりが“辺境の人”の弔い場を発見するところ。そこには自殺者の亡骸を収めたたくさんの箱が置かれ、鉄砲薔薇という(おそらく)架空の花が咲き乱れている。ほかにも名シーンは数知れず。とにかくディテールが読みごたえありなのです。毛毬の章は、地方のヤンキー文化を描いた青春小説として面白いし、それだけに瞳子の現在の“物語性のなさ”が際立ちます。

瞳子はなにかと派手な祖母と母の生涯を振り返りつつ、自分には何もないと述懐する。瞳子の抱える鬱屈は、昔は豊かで満ち足りていたのに、現代では都会に依存する村の寂しさとも重なります。まるで枯葉のように朽ちていく世界。では、本文中に出てくる“ビューティフルワールド”という言葉は、どんな意味で使われているのでしょうか? ぜひ読んで確かめてみてください。

年末年始は桜庭ワールドに浸る!『赤朽葉家』の次には何を読む?>>>
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