誰にとっても他人事じゃない
ただひとつ気になるのが、八重子の描き方。昭夫が家族に無関心だからかもしれないし、亡くなっている可能性もありますが、八重子の親の話がまったく出てこないんですね。昭夫が政恵の息子であるように、八重子も誰かの娘のはずなんですが。彼女の育ってきた環境や内面がほとんどわからないので、単なる鬼嫁、かつ子どもを溺愛する愚かな母親にしか見えません。自分が女性だからかもしれませんが、もう少し八重子のことが知りたかった。
もし自分が八重子の立場だったら、同居してきちんと認知症の老人の世話をできるだろうか? それ以外の選択肢はないのか? 昭夫だったら八重子とちゃんと話し合えるだろうか? そんなことを考えると重い気持ちになります。
とはいえ、こういう重い問題をエンターテインメントとして読ませる筆力はさすが。タイトルにつながる“赤い指”の謎やちょっとした小道具の使い方が巧いんですよね。悲惨な話ですが、最後の最後に明らかになるある謎の真相が読後感を良くしている。著者の作品のアベレージの高さを再認識する一冊です。
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