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キャロル・ブーム到来?5月の注目文庫

新緑の季節。木陰での読書も気持ちいいですね。ガイド厳選、4月発売のおすすめ作品と5月の新刊先取り情報をお届けします。イチオシはジョナサン・キャロルの長篇です!

執筆者:石井 千湖


4月と5月発売のものからそれぞれいくつかピックアップ。小説世界に思わずのめりこんでしまう本をご紹介します。

まずは4月に発売になった新刊から。

【4月のイチオシ】キャロル・ブーム到来? 待望の新刊ジョナサン・キャロル『蜂の巣にキス』

蜂の巣にキス
デビュー作『死者の書』の新装版が出て、5月には短篇集『パニックの手』も文庫化。キャロル・ブーム、到来か?
ひとりで食事をするのは好かない。有名になりたかったのはそれもあった。

そんなモノローグではじまる『蜂の巣にキス』。著者のジョナサン・キャロルは、普通小説とファンタジー/ホラーを融合させた“ダーク・ファンタジー”というジャンルを切り拓いた作家として知られています。が、約10年ぶりに翻訳された本書はかなりミステリー色が強い。トマス・H・クックの〈記憶シリーズ〉などを彷彿させる、過去探しの物語です。

30年前に殺された美少女、ポーリン。彼女の死体を発見し、長じて売れっ子小説家になったサムは、スランプに陥ったときほんの気まぐれで故郷の町を訪れる。そして、ポーリンの死を小説にすることを思いたち、調査をはじめます。過去の事件を調べることによって新たな事件が起こる、という典型的な展開。驚きは事件の謎よりも、登場人物の描き方にあります。

最近は特に、キャラクターが立っている小説が人気ですよね。私(ガイド)も好きです。“キャラ”というのは着ぐるみみたいなもので、わかりやすくて、楽しくて、安心できる。読者を裏切らない。現実の世界の人間関係でも、多かれ少なかれ自分のキャラや他人のキャラを大まかに設定しています。本当はもやもやしているものとつきあっているなんて、意識すると恐ろしいですから。キャラは便利なのです。

キャロルは容赦なくその着ぐるみを脱がせます。主人公サムを崇拝する美しい恋人、ものわかりのいい娘、ガキ大将だった幼なじみ、殺された奔放な美少女、威厳と悲しみをたたえた容疑者の父、そしてひとりで食事をしなくてもいい人生を手に入れたサム自身……登場人物がキャラという着ぐるみを脱ぎ捨てたとき、中には何があるのか? 人間の説明できないもやもや部分が面白いと思わされる作品です。

【4月の注目】MWA賞受賞作家の新シリーズデイヴィッド・ハンドラー『ブルー・ブラッド』

ブルー・ブラッド
太めの映画批評家ミッチと、ドレッドヘアの女性警部補デズのコンビが◎
『蜂の巣にキス』とうってかわって、『ブルー・ブラッド』はキャラクター造形が魅力的な小説です。

俺は暗闇で活気づくんだと気がついたのさ。バンパイアというよりは、風変わりなキノコみたいなもので。暗くされた映画館は俺本来の住み家なんだよ。子供の頃はいつもあの中にいた。俺の知識はすべて映画館で学んだものだ。…P174

なぜ映画批評家になったのか訊かれて、ミッチはそう答えます。ことあるごとに古い映画のウンチクを開陳するミッチは、わかりやすく言えば“おたく”です。しかも筋金入りの。もともと引きこもり気味のミッチでしたが、最愛の妻を病気で亡くして以来、その傾向は酷くなる一方。心配した新聞社の担当者に、保養地の記事を書くようにすすめられます。そしてコネチカット州ビッグシスター島で生活することになるのです。そこは美しいけれど、ある一族の関係者で占められた、閉鎖的な土地でした。ミッチは引っ越して早々、奇妙な出来事に次々と遭遇。挙句の果てには、園芸をはじめようとして死体を掘り出してしまいます。

その死体の捜査を担当することになったデズは、数少ない黒人の女性警部補。警察という組織ではマイノリティ。成果をあげられなければ引きずり下ろされるという緊張感のなかで、孤軍奮闘しています。彼女は大の猫好き。助けた野良猫たちの里親探しのためなら、嫌いな同僚にも愛想をふりまきます。モテるけど男よりも猫が好き。仕事がデキて、美人。わかりやすく言うと“負け犬”キャラ?

事件の真相はいや~な感じだし、ミステリー部分に新鮮味はないのですが、ミッチとデズの会話が楽しく、可愛い猫にも和まされながら、ケレン味たっぷりのストーリー展開に乗せられ、いつの間にか読み終わってました。

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