2月から3月にかけて、なぜか読みごたえのある警察小説が続々と出版されました。ビターだけど格好いい、大人のためのミステリーをどうぞ。
イチオシ!経験者が描く女性警官の日常ローリー・リンドラモンド『あなたに不利な証拠として』
キャサリン、リズ、モナ、キャシー、サラ。5人の女性警官の日常をヴィヴィッドに描く。 |
本書には9つの短篇が収められています。主人公は、ルイジアナ州バトンルージュ市警に勤める5人の女性警官。彼女たちが制服警官という仕事を通して見たことや感じたことを、細やかに描きます。たとえば、射殺した犯人の息づかい、交通事故で重傷を負った青年の血、女の胸に深々と突き刺されたナイフの柄……。著者は元警察官だそうで、銃を装備したときできるあざなど細部の描写がリアルです。ただ経験したから描けるのではなく、絵画でいうデッサン力があるのでしょう。
揺らめく光が深い陰影を生む
日々銃があたる部分にグレープフルーツ色のあざをつくりながら、危険な任務を遂行しても彼女たちは報われません。読んでいると、とても息苦しくて、やりきれない。でも、あとでまた読み返したくなります。なぜならディテールがはっとするほど美しいから。たとえば2作目の「味、感触、視覚、音、匂い」は死臭について語った1篇ですが、甘くかぐわしい香りから耐えきれない腐臭まで、いろんな匂いのヴァリエーションが出てきます。そして死体の独特な臭気はどんな匂いにもたとえられないことがわかります。また全体的に素晴らしいのは、随所に織りこまれる光の表現。窓から射しこむ陽光、パトカーのランプ、焚火、木漏れ日。くっきりと輪郭を浮かび上がらせない、揺らめく光を描いているところが。
モリ・リザはその微笑がなかば闇に溶けこんでいるからこそ、多様な解釈を生みだしました。本書は登場人物の行動や心理を蛍光灯のように隅々まで照らさないことで、深い陰影を描いています。影にも色があり、沈黙にも音があり、生にもいろんな生があると感じさせてくれる。言いたいことを全部登場人物のセリフで説明してしまうような小説と対極にある作品なのです。
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