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名探偵はひきこもりシリーズが文庫に

2月の文庫新刊のイチオシは、ひきこもり探偵が活躍する人気シリーズ第1弾。そしてそして、3月にはあの大ベストセラーが文庫に!

執筆者:石井 千湖


まず先月ご紹介した佐藤友哉さんの『フリッカー式』は発売延期になった模様です。書籍取次会社の一覧を参照して書いていますが、予定ですので変更になることもございます。あらかじめご了承ください。

当月と翌月発売のものからそれぞれいくつかピックアップして、小説世界に思わずのめりこんでしまう本をご紹介します。

まずは2月に発売になった新刊から。

【2月のイチオシ】ひきこもり探偵シリーズ第1作が文庫化坂木司『青空の卵』

青空の卵
外資系の保険会社に勤める「僕」坂木司の親友・鳥井真一は自称ひきこもりのプログラマー。「僕」が連れださなければ外に出たがらない鳥井には、意外な才能が……。“日常の謎”系の連作短篇集。
このシリーズを最初に知ったときは「ひきこもり、話題になってるからねぇ」と少し意地悪な気持ちで手に取りました。ところが、読んでみるとはまるんですね、これが。

語り手の「僕」(坂木司)の親友・鳥井真一は、複雑な生い立ちやいじめられた経験から心を閉ざし、なるべく他人と関わらないようにしている。「僕」は、毎日仕事が終わったらすぐ鳥井の家に行き、彼に外の世界を見せようと試みる。家族よりも鳥井優先の「僕」と、涙腺のゆるい「僕」が泣きそうになるとパニックを起こす鳥井。二人の関係はいささか常軌を逸した、「これは共依存?」と言いたくなるようなべったり具合。でも、なんだかモヤモヤしつつ好感が持てるのは、「僕」は今の状態を良しとせずに、一生懸命鳥井に働きかけて自分以外の人間ともかかわらせようとしているから。その過程で事件が起き、鳥井が謎を解く。“日常の謎”系統の連作短篇集です。

他人との距離を測りあぐねる。ひきこもりまでいかなくてもそういう悩みを抱えている人は多いでしょう。鳥井がどうやって世界を広げていくのか。一緒に確かめてみませんか。鳥井のつくる料理(パスタ、カレー、お雑煮などなど)が美味しそうで、お腹が空きます。

【2月の注目】1冊で7度おいしい!? アンソロジー乙一・恩田陸・北村薫・誉田哲也・西澤保彦・桜坂洋・岩井志麻子『七つの黒い夢』

七つの黒い夢
乙一・恩田陸・北村薫・誉田哲也・西澤保彦・桜坂洋・岩井志麻子……人気作家の作品が1冊で楽しめるアンソロジー。
『七つの黒い夢』は、七人の作家が書いたちょっと怖い話を収録した短篇集です。

最初に収録されているのは乙一の「この子の絵は未完成」。子供の描く絵からなぜか描いたもの(カレーとかゾウとか)の匂いがするという話。“普通の人はこんなことしないの!”という母親の叫びが切ない。恩田陸「赤い毬」の熊笹の海、北村薫「百物語」のビデオの電源まで消した真っ暗な部屋など、映像が頭に浮かぶ作品が多い。日常の中にちょっとした異世界を垣間見られます。

桜坂洋「10月はSPAMで満ちている」はユニーク。スパム・メールを書く仕事についた主人公が、近所のコンビニで魚肉ソーセージを買っているのは誰かを探る。と、あらすじを説明すると「何それ?」と思われるでしょうが、スパム・メールやPOSレジに対する考え方が面白いです。キャラクターも魅力的。初めて著者の作品を読みましたが、もっと読んでみたいと思いました。

未読の作家を読むきっかけになるのも、アンソロジーの良いところですね。

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