田口公平と白鳥圭輔、探偵が2人になったわけ
ガイド:田口は病院長直々の依頼で、仕方なく「チーム・バチスタ」のスタッフに聞き取り調査をする。メンバーの人柄は浮かび上がりますが、真相はわからないまま。そして厚生労働省の役人・白鳥が登場します。前半と後半で探偵役が交代するというところも、本書の特色ですね。海堂さん:二部構成にしようなんて、最初は考えてなかったんですよ。第一部の終わりまではすらすら書けたのに、事件を解決するのかなと思っていた田口が「私の調査能力を越えています」と投げだしてしまったんです。何とかしなきゃと考えたんですが、どうしたらいいかわからない。その頃ちょうどスキーに行く予定があったので、そのままにして遊びに行ってしまいました(笑)。スキー場でふと、白鳥のような人間が外からやってきたら解決するんじゃないかと思いついたんですね。白鳥をああいうキャラクターにしたわけは単純で、田口がひたすら聞き役に徹して相手のことを理解しようというスタンスで話を聞くので、まったく逆の攻撃的なタイプにしようと。
ガイド:白鳥も厚生労働省という組織で浮きまくっている変わり者です。
海堂さん:みなさん白鳥はトンデモないやつだって言いますけど、セリフだけ抜きとって読んでもらうと、それほどムチャクチャなことは言っていないんですよ。デリカシーは欠けていますが(笑)。
ガイド:相手の痛いところを突き続けるような追いつめ方をしますよね。
海堂さん:別に意識して痛いところを突いているわけじゃないんです。たまたま相手にとって痛いだけで悪意はない。これを言ったら痛いだろうなと慮ることが欠落しているだけです。だからロジカル・モンスターと呼ばれるんですね。学問などで真実を追究するときには、必ずそういうことがあります。たとえばアインシュタインにもそういうエピソードがありますよね。一般の人にはあまりいないかもしれませんが、学問の世界にはときどき白鳥のような人はいるので、特別エキセントリックなキャラクターではないと思っています。
人を傷つけることができなければ、治すこともできない。医療現場の光と闇を知っている人の言葉だからこそ、説得力があります。 |
人を傷つけることができないと医者にはなれない!?
ガイド:探偵が2人いることもそうですが、“密室”としての手術室が描かれていることも、本書の特徴ですね。手術室ってよくよく考えたら凶器はそこらじゅうにあるし、たえず他人の眼があるから証拠を隠すのは難しいですけど、ここで人を殺そうと思えばいくらでもチャンスはある。海堂さん:そう、アブノーマルな場所ですよね。治すという目的がなければ、手術は傷害であるとも言えますから。言い方を変えれば、人を傷つけることができないと、治療することもできないわけです。ある種類型的な、ヒューマニズムにあふれた医者を描いた物語がありますよね。昔から僕は、そういう作品は好きじゃないんです。何にでも光と闇の部分があるのに、光の部分だけ拡大してしまうとすごく嘘っぽい感じがしてしまう。その辺は難しいんですけど、感じてもらえたらいいですね。
ガイド:最後に、田口の聞き取り調査法の真似をして、この質問をしたいと思います。海堂さんの名前(ペンネーム)の由来は何ですか?
海堂さん:田口の質問は、パスするのもありでしたよね(笑)。まず“海”という字を使いたかったんですよ。そうすると次にくる漢字が限られてきて。字が下手なので定規でも書けそうな“堂”を持ってきました。“尊”はヤマトタケルをイメージしたのかな。身内には「偉そうだ」って不評です。なんとなくで、理由はあとづけなんですけどね。
ガイドの質問に丁寧に、そしてにこやかに答えてくださった海堂さん。ご本人にお会いした印象は、飄々とした紳士、という感じ。デビュー作がいきなりベストセラーになって、周囲の状況も変わりつつあるのだとか。これからも医師として勤務しながら、小説を書いていくそうです。次回作の構想も今考えているそうですよ! 楽しみです。
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