食事対決! カロリーメイトVS豪華な料理と銘酒
『扉は閉ざされたまま』で旨そうな肴とともに出てくる銘酒。飲みたくなります。 |
一方、『扉は閉ざされたまま』のほうは、小規模とはいえ宴会ですから豪華です。昼食はステーキ、夕食は鍋。あとはなんといっても酒がすごい。殺された新山は無類のウィスキー好きな上、住んでいる場所がニッカの蒸留所がある余市なので、お土産として限定品の酒を持って来ています。伏見も高価で美味しいワインを出すのですが、このワイン、ネットで値段を調べてみたら30,000円近くしていました。それが出たときの、登場人物の態度。思わず飲んでみたくなります。この辺のトリビアは食品メーカーに勤める著者ならではのものかも。ただ薀蓄を披露するだけではなくて、ちゃんとミステリーの中で意味のある小道具として使われています。
謎解き対決! 扉の内側VS扉の外側
タイトルが似ていて、設定はクローズドサークル、いずれも若い男女の恋愛が絡むという共通点がある2作には、大きく違っている点があります。それはメインとなる謎。『そして扉が閉ざされた』は、ハウダニット(どのようにしてやったのか?)もありますが、やはり一番大きな問題はフーダニット(犯人は誰か?)。犯人やトリックが最初から明かされている『扉は閉ざされたまま』の場合は、ホワイダニット(なぜやったのか?)が重要な謎になっています。また、『そして扉が閉ざされた』は犯人(かもしれない人)が密室に閉じ込められて、推理を述べ合うという点が特異。『扉は閉ざされたまま』は、ある事情で確証がなければドアを破ることができなくて、事件があったのかどうかは犯人しか知らないという点が出色。2作ともロジックを展開する場面は緊張感たっぷりなのですが、『扉は閉ざされたまま』は、探偵役に都合がいいように後で証拠を考えたような“取ってつけた感”があるし、ありえない動機とまでは言わないけれど、ホワイダニットが今ひとつ説得力に欠ける。ということで、謎解き部分は二転三転するラストに驚かされる『そして扉が閉ざされた』の方に軍配が上がると思います。
以上、評価の高い2作を比較してみましたが、いかがでしたでしょうか? 謎解き部分は『そして扉が閉ざされた』のほうが驚きがあると言いましたが、こういう特殊な設定であればあるほど後から書くほうが難しいわけで、『扉は閉ざされたまま』は、密室にする動機に新たな視点を見いだした作品として、読み逃せない作品です。
<関連リンク>
・クリスティー・タイム…『そして誰もいなくなった』『オリエント急行殺人事件』などクローズドサークルものの傑作を数多く生み出した作家といえばアガサ・クリスティー。こちらは日本のオフィシャルサイト。
・綾辻行人データベースAyalist…日本でクローズドサークルものといえばこの人。「館シリーズ」は必読です。こちらはファンサイト。