CD付き単行本の可能性
PCやAV機器の普及した現在、ディスク付きの雑誌は巷に溢れているが、ミステリー小説にディスクが付くことは特例(西尾維新『零崎双識の人間試験』など)を除いて有り得なかった。しかし――2007年11月、CD付きのミステリー関連書が立て続けに刊行された。時期が重なったのは偶然だとしても、これは象徴的な出来事なのかもしれない。将来のミステリー小説に映像・音声のディスクが付かないとは限らないからだ。マニア垂涎のお宝音源
人気作家と各界のプロフェッショナルによる豪華鼎談集。ディープな蘊蓄の数々が読者の好奇心を刺激する。付属CDの音源は必聴モノだろう。 |
北村の最新刊『北村薫のミステリびっくり箱』には、2003年から2007年にかけて『野性時代』に掲載された8本の鼎談が収められている。探偵作家クラブ(日本推理作家協会の前身)の会報をきっかけとして、専門家とミステリー作家を招いて話をする――というマニアックな企画だが、必ずしも敷居の高い内容ばかりでもない。第1回「将棋」では逢坂剛とプロ棋士が棋譜から江戸川乱歩の性格を分析し、第2回「忍者」では馳星周が"本物の忍者"に出逢うなど、本書にはユニークな内容がびっしりと詰まっているのだ。
宮部みゆきと戸川安宣をゲストに迎えた第6回「声」では、1949年に行われた文士劇、乱歩邸で発見されたテープなどの話題が述べられており、付属CDにはここで言及された音源が収録されている。内容は「ラジオドラマ びっくり箱殺人事件」(出演=江戸川乱歩、大下宇蛇児、山田風太郎他)、「江戸川乱歩インタヴュー」、江戸川乱歩歌唱「城ヶ島の雨」、甲賀三郎自作朗読「荒野」――探偵小説マニアには必携モノだが、さほど"濃い"マニアではなくとも、乱歩の演技や歌に興味を抱く人は多いはずだ。北村は本書を通じて"文化遺産"を読者の手元に届けたのである。
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