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感動のロボット小説BEST5(5ページ目)

2009年10月に映画「ATOM」が公開予定。『鉄腕アトム』をはじめとして、なぜロボットの物語は人間の心をとらえるのか? ロボットを題材にした小説を集めてみました。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

話題の本ガイド

5.ロボットは自分を映す鏡菅浩江『プリズムの瞳』

プリズムの瞳
<DATA>タイトル:『プリズムの瞳』出版社:東京創元社著者:菅浩江価格:1,995円(税込)
ロボットはそもそも、ヒトの役に立つために生まれたものだ。菅浩江の『プリズムの瞳』は、絵を描くだけで何も役に立たないロボット“ピイ・シリーズ”が、各地を放浪し、さまざまなヒトに出会う連作短編集。

ピイ・シリーズの“ピイ”は、プロフェッショナルのP。危険を伴う特殊作業、精密な外科手術や工作、芸術における超絶技巧など、何らかの専門に特化されたロボットだった。壊れない限り半永久的に自分で動く。究極の道具として最初は珍しがられたものの、結局は人間が指揮をとる現場で浮いてしまい、無用の長物と化してしまう。で、残された機体は画家に転向し、作中の現在に至る、というわけなのだ。

ヒト型だが、瞳が虹色だったり、皮膚に透明感がなかったりして、人間じゃないことがすぐわかる。一応、会話はできるが、無表情でメカニカルな反応しかできない。ただ絵を描くだけで、他には何もしない。そんなロボットに、恋人とぎくしゃくしている女性、夜遊びにふける不良少年、整形美女など、問題を抱える人間が引き寄せられていく。役に立たないが害にもならないピイ・シリーズを憎み、攻撃する人間もあらわれる。

なぜか。それはピイが鏡のような存在だからだ。人間はヒト型をしているものに感情がないとは頭では理解できても実感できないらしい。ピイの無表情からいろんなことを読みとってしまう。読みとったのはピイの心ではなく、自分の心のなかに隠されたものだ。

また、どうして無用になったピイが処分されなかったのか。その理由が最後にわかったとき、しみじみとした感動をおぼえる。小説も、ピイのようなもの。そういう作者のつぶやきが聞こえてくるようだ。

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