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音楽に祝福された青春小説×2(2ページ目)

NO FUTURE だけど MUSIC BLESS YOU! 読めば音楽を聴きたくなる青春小説、津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー』&山崎ナオコーラ『長い終わりが始まる』をご紹介。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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山崎ナオコーラ『長い終わりが始まる』

長い終わりが始まる
<DATA>タイトル:『長い終わりが始まる』出版社:講談社著者:山崎ナオコーラ価格:1,260円(税込)
本書の主人公は、自分の未来に興味がなく、仕事や恋よりも趣味の方が大事な女子大生・小笠原。その趣味とは、マンドリンだ。

たとえ趣味でも、芸術の問題なんだから、真剣にやろうよ

と思っている小笠原は、3年ローンで高い楽器を買い、毎日休まず練習を続けてきた。大学のマンドリンサークルで一番弾けるという自負もある。でも結局、首席奏者(コンミス)にはなれなかった。人事は演奏よりも人づきあいの技術で決まるからだ。

小笠原には好きな人がいる。サークルの同期で、指揮者の田中だ。見かけがかっこいいわけじゃないし、人づきあいも下手だけど、小笠原の実力を認めていて、芸術の問題を真剣に話し合える。ことあるごとに好意を伝えても流されていたのだが、四年生になって間もないある日、小笠原は田中の家に遊びにいく。

好きな人と、友だち関係のままセックス(未遂)してしまった。そこから小笠原の恋の“長い終わり”が始まる。

田中の髭がまぶたにあたったあと、しばらく目が変になって、世界に小雨が降ったみたいに紗がかって見えたこと。ついに失恋が決定的になった日、足長蜘蛛をつかんだティッシュを捨てようとして開けた窓から見えたもの。小笠原が“長い終わり”の間に見る風景が美しく忘れがたい。

〈芸術的共感は愛情には繋がらない〉という述懐にも胸を突かれる。演奏が巧くてもコンミスに選ばれなかったように、音楽で深く繋がっていても恋人には選ばれない。本書は、恋と音楽を『のだめカンタービレ』とはまったく逆のベクトルで融合させているのだ。

★読み終わったら聴きたくなる曲
藤掛廣幸 「星空のコンチェルト」

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