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100万部突破!『ホームレス中学生』を読む(2ページ目)

麒麟田村の“貧乏自叙伝”が発売からわずか2か月で100万部突破! 数多ある芸人本の中でなぜこの本が圧倒的に売れているのか考えてみました。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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たいていの人は他人の愚痴が大嫌い

ホームレス中学生
カバーを取ると、“まきふん公園”にたたずむ田村の姿が。ドラマ化、映画化の依頼が殺到し、企画も動きだしているとか。これからもますます部数を伸ばしそうです。
本書を一読して印象に残るのは、田村少年が徹底的に自分の境遇に恨み言をいわないこと。ある日突然、自宅に入れなくなり、家族と離れ離れになり、食事にも事欠く生活を送るはめに陥るにもかかわらず。その代わりに強調されるのは、両親、兄と姉、助けてくれた友達の家族、先生への感謝の言葉。実にポジティブなのです。

道徳的な説教に使える要素もあるし、たいていの人は他人の愚痴が大嫌いですから、気持ちよく読めます。つたない文章、母への思慕を表現するときの幼い子供のような語り口も、“作り物感”を消すので効果的です。

エピソードのピックアップ力、笑える演出

そして、「人志松本のすべらない話」などテレビ番組でも披露され、名うての芸人たちと視聴者を驚嘆させた、各エピソードにおける笑いの部分。衝撃の一家解散事件、“まきふん公園”の遊具に住みつきウンコの神様になったこと、白米だけの夕食で“味の向こう側”に到達した経緯……。どれも映像が浮かびます。

もちろん、語られている時点で、どんな事実もフィクショナルになります。もっと悲惨な生い立ちを持っている人だって、たくさんいるでしょう。でも自分の体験のどこが他人にとってはおもしろいのか、どんな風に演出すれば笑ってもらえるのか。そこに気づく客観性を持っていることが著者の強みです。

『おしん』しかり、『一杯のかけそば』しかり、『佐賀のがばいばあちゃん』しかり。ただでさえ貧乏物語は日本人の好物。その上、「語り」も「演出」もうまいのですから、ベストセラーになるのも無理はない1冊といえるでしょう。

<DATA>
タイトル:『ホームレス中学生』
出版社:ワニブックス
著者:田村裕
価格:1,365円(税込)

【ガイドより】
ガイドの読書メモ随時更新中!…気になる新刊、読み逃していた既刊、掘り出し本をランダムに紹介。


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