『黒笑小説』
あの東野圭吾が、「ここまでやるかぁ~」。文壇をイジり、自作をイジり、捨て身で笑わす快作13編

『黒笑小説』
・東野圭吾(著)
・価格:1680円(税込)

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■文壇をイジリ、自作をイジる。笑いのマエストロが捨て身で笑わす13編

 『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞してデビュー以来、『白夜行』『幻夜』など、人の生き様に迫る重厚にして緻密なミステリー大作や『さまよう刃』など社会派作品で高い支持を獲得、もはや大御所と読んでもいいほどの著者著者には、もうひとつの顔がある。
 そう、人呼んで、「笑いのマエストロ」。
 ブラックな笑いを極めた短編集『毒笑小説』など、自身の青春時代を綴った抱腹絶倒エッセイ『あの頃ぼくらはアホでした』などで、多芸ぶりをいかんなく発揮してくれている。そんな著者の、最新短編集には、文壇事情を絡めたものをはじめ、黒い笑いいっぱいの13編が収められている。

 何回も候補になりながら、文学賞が獲れないまま、旬を過ぎた作家の俗物根性を皮肉った『もうひとつの助走』『選考会』、新人賞を受賞して念願の作家デビューを果たした男の舞い上がりぶりを描いた『線香花火』『過去の人』など、本好き、東野ファンにとっては、「ここまでやるか、東野圭吾」と、あきれ突っ込みを入れたくなる作品も満載。
さらには、虐げられる健気なシンデレラの「黒い実像」を描く『シンデレラ白夜行』では、自身の最高傑作(だと私は思う)を本家取りするという荒業も見せる。

 帯には、「俗物作家東野がヤケクソで描く」という書かれていたが、少なくとも、確信犯ですね、明らかに。人を笑わすには、まず、自分をイジる――捨て身で笑わすというお笑いの基本を見事なまでに、踏襲している。大阪の下町出身の著者(個人的なことだが、私、東野大先生とピン・ポイントで同郷なのです。『白夜行』が、故郷のご当地文学でもあることや、『あの頃ぼくらはアホでした』のアルファベットで記された学校の名前がぜんぶわかることが、ひそかな、自分勝手な自慢)「オモロイ奴」が人気者の必要条件(十分条件ではない)だ、という身体に染み付いた価値観が行間から滲みでている。

 そのほか、フラレた彼女から命じられて渋々、ストーカーを始めた男の知った意外な真実、(『ストーカー入門』)、人気キャラクター関連のグッズを娘にねだられて買う家族が密かに果たしていたある約束(『臨界家族』)など、なさそうでありそうな設定、ヒネリの効いたシニカルなオチに、思わず、うなさられてしまう。

 著者のサービス精神が縦横無尽に発揮された作品だが、私は、それにとどまらず、本作には、感動大作を含めて、東野作品全般を貫く、「真髄」とでもいうべきものが隠されているように思えた。
それは・・・