たいていの人は他人の愚痴が大嫌い
カバーを取ると、“まきふん公園”にたたずむ田村の姿が。ドラマ化、映画化の依頼が殺到し、企画も動きだしているとか。これからもますます部数を伸ばしそうです。 |
道徳的な説教に使える要素もあるし、たいていの人は他人の愚痴が大嫌いですから、気持ちよく読めます。つたない文章、母への思慕を表現するときの幼い子供のような語り口も、“作り物感”を消すので効果的です。
エピソードのピックアップ力、笑える演出
そして、「人志松本のすべらない話」などテレビ番組でも披露され、名うての芸人たちと視聴者を驚嘆させた、各エピソードにおける笑いの部分。衝撃の一家解散事件、“まきふん公園”の遊具に住みつきウンコの神様になったこと、白米だけの夕食で“味の向こう側”に到達した経緯……。どれも映像が浮かびます。もちろん、語られている時点で、どんな事実もフィクショナルになります。もっと悲惨な生い立ちを持っている人だって、たくさんいるでしょう。でも自分の体験のどこが他人にとってはおもしろいのか、どんな風に演出すれば笑ってもらえるのか。そこに気づく客観性を持っていることが著者の強みです。
『おしん』しかり、『一杯のかけそば』しかり、『佐賀のがばいばあちゃん』しかり。ただでさえ貧乏物語は日本人の好物。その上、「語り」も「演出」もうまいのですから、ベストセラーになるのも無理はない1冊といえるでしょう。
<DATA>
タイトル:『ホームレス中学生』
出版社:ワニブックス
著者:田村裕
価格:1,365円(税込)
【ガイドより】
・ガイドの読書メモ随時更新中!…気になる新刊、読み逃していた既刊、掘り出し本をランダムに紹介。