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たまにはじっくり。文芸書<第2回> 『晴子情歌』

ファンが待ち望んだ『レディー・ジョーカー』以来の長編小説。でも、今回はちょっと勝手が違うかも。著者が五年の歳月をかけ、新境地へ挑んだ作品の内容とは?

執筆者:梅村 千恵


『晴子情歌』(上・下)

高村 薫
新潮社 各1800円

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■女性が主人公、しかも書簡小説。えっ!? これが高村薫!?

昭和五十年、インド洋の遠洋漁業船上にいる三十歳の男の元に母からの百通にも及ぶ手紙が次々と届く。母の名は、福澤晴子。男の名は彰之。
晴子は書く。大正デモクラシーの幻想を生きた晴子の母のこと、土着的なるものと先鋭的なるものの狭間に切り裂かれ、静かにゆっくりと挫折していった父のこと。そして、東京から青森へ、そして、北海道へ、変転の中で少女から女になり、愛憎の狭間で母となった自らのこと・・・。
母はなぜ自分に向けて長大な手紙を書いたか、その真意をはかりかねる彰之。その文面を反芻すればするほど、母は謎めいていく。母とは一体何ものなのか?母という謎の海で、息子は漂い、あがく――。

著者、久々、待望の長編小説である。しかし、既存作のファンたちは、率直に言って、違和感を禁じえないのではないかと思う。本書の多くの部分は、晴子が息子に宛てた書簡で形成されており、その筆致は、女の息遣いにあふれている。骨太の「男」たちを硬質な筆致で描いてきた高村薫と「女の息遣い」――これだけでも、かなり異色の組み合わせだ。
自らの作風を高レベルで確立させた感のある彼女が、ファンを裏切る危険を冒してまで、この作品で果たして何を描こうとしたのだろうか?
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