モスVSシュガー! 追われる者と追う者のスリリングな関係
原題「NO COUNTRY FOR OLD MEN」。コーエン兄弟が映画化、2008年に日本公開予定。 |
と、いうのが普通だと思う。だが、危険とわかっていても都合よく楽観主義になってしまうのが人間の悲しいところ。たまたまハンティングをするため近くを訪れたヴェトナム帰還兵のモスは、その金を持ち去ってしまう。
そうやって命がけの鬼ごっこをする羽目に陥る登場人物は、他の小説にも枚挙にいとまがないが、本書の場合、モスが単なる欲に目がくらんだ愚か者としては描かれていない点がおもしろい。彼には周囲を見わたす冷静さがある。さらに興味深いのは、モスがいったん無事に家に帰ったにもかかわらず、ひとりだけ息があったメキシコ人に水を飲ませるために現場に舞い戻ること。なぜかはわからない。おかげで彼は、犯罪組織の人間にさえ恐れられているシュガーに狩られることになってしまうのだが。
クライム・ノヴェルにはときに、実生活では決してお目にかかりたくないけれども、思わず引き込まれる犯罪者が登場する。シュガーもそのひとり。冒頭でベルが眼の話をするが、シュガーの眼はこんな風に描かれる。
ラピスラズリのように青かった。光っていると同時に完全に不透明だ。濡れた石のように。
想像してみてほしい。そして、この男がどんな風に人を殺すか知ったら戦慄するだろう。
モスはシュガーから逃げられるのか? ベルはふたりを追いながら何を見るのか? ノワール映画に名作が多いコーエン兄弟による映画化も納得。記憶に残る一冊だ。
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タイトル:『血と暴力の国』
出版社:扶桑社
著者:コーマック・マッカーシー
翻訳者:黒原敏行
価格:900円(税込)
【関連リンク】
・ノーカントリー…Yahoo!映画の「NO COUNTRY FOR OLD MEN」(原題)のページ。