亡くなった少年が遺した不思議な絵の謎
9年前の事件から立ち直れていない前畑滋子のもとに、不思議な依頼が……。謎に満ちた物語が始まる! |
A.主に女性を標的にした未曾有の連続誘拐殺人事件を描いた『模倣犯』
滋子はその事件を追っていたライター。真犯人の正体を暴き、その名は一躍有名になるが、彼女は精神的に深いダメージを負った。それから9年。滋子が萩谷敏子という中年女性に出会ったことで物語は動きだす。敏子は12歳のひとり息子・等を交通事故で亡くしたばかりだった。
等の絵に描かれていた、コウモリの風見鶏の家に横たわる灰色の肌の少女。彼の死後、絵に似た特徴を持つ家で、両親に殺され16年間自宅の床下に埋められていた少女の死体が発見される。等はどうやってそのことを知ったのか? 偶然か。超能力があったのだろうか。調べるうちに、ある家庭の悲しい過去と、現在進行中の事件の存在が明らかになっていく。
萩谷敏子という女性を創造したこと。それが本書では何よりも素晴らしい。敏子はスーパーマーケットのパートで生計を立てながら、等をひとりで育ててきた。母親のことを太っていて鈍重だという意味で象みたいだと友達にからかわれた等が、
象ってね、野性のときでも、人間に飼い馴らされてからも、目つきが変わらないんだよ。ずっとああいう、穏やかな目をしているんだよ。それは知性があるからなんだ。そんな動物、ほかにはいないんだって。
と笑顔で返したという冒頭のエピソードを読んだ途端、心をつかまれてしまう。そして敏子が歩んできた人生や、等の出生の事情を知って絶句する。息子のように特別な才能はないけれど働き者で、誰に対しても腰が低く、ちょっとどうかと思うほどお人好しのおばさん――。でも敏子には人を見る目や、世間知がある。等がいった意味で“象のような”人なのだ。彼女の存在が、暗い物語の中で救いになっている。
滋子が向き合うことになるさまざまな母子関係とは?