■「郷愁感」を武器に、時代が変わっても変わらない人間の性向のひとつを描き出す。著者の「したたかさ」に期待!
そう、現在にだって、ちゃんとあるではないか。
人が何らかの形で集団を形成したときにネガティブな感情を母胎として生まれる「怪」は。
地域コミュニティーや仲間うちで囁かれる、いわゆる「都市伝説」であったり、「学校の怪談」・・・
そういえば、オール読物新人賞を受賞したデビュー作を収めた作品のタイトルは、そのものズバリ『都市伝説セピア』。こちらも直木賞候補作になったが、この作品と本作をあわせて読むと、著者は、懐かしさというきわめて親和性の高い武器を巧みに操りながら、時代や環境は少々変わろうともけっして消えることのない人間の一つの性向を凝視しているように感じられた。
時代や環境が多少変わろうが、「怪」というものを求め、生み出し、それにふりまわされる、そんな性向を・・・。
収録された作品の中には、「ええ話やなぁ~」という甘めのオチに話が収束して、ヒネクレ者の私にとっては、少々不満が残る作品もあった。だが、「読後感の良さ」を絶妙にブレンドするあたりも、もしかすると、著者の確信犯的計算かも、とすら思わされた。
本作は、著者の手練れぶりがいかんなく発揮された作品集である。それとともに、この直木賞作家は、何かとてつもない隠し球を持っているようにも感じられる。新作が出るたびに、いい意味での「裏切り」をやってくれそうな・・・期待しております!
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◆人気・実力を兼ね備えた作家の作品に与えられる直木賞ですが、受賞をきっかけに、大ブレイクすることも。売れ筋、トレンドを押えておきたいなら、「ベストセラーをチェック」で
数ある賞の中でも、超メジャー級の直木賞。関連のホームページをいくつか。
受賞作家、候補作家のすべてがわかる充実サイト『直木賞のすべて』。このWEBから生まれた『消えた直木賞』も要チェック!
親交の深かった作家・直木三十五を褒章し、賞を設立したのが、菊池寛。高松市には「菊池寛記念館」があり、直木賞作品の初版本なども展示されています。
直木賞・芥川賞のお膝元とともいえるのが、菊池寛が設立した出版社文藝春秋。この二つの賞以外にも、菊池賞、松本清張賞などを主催しています。
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