■昨年の多作ぶりは、すべてこの作品のため!?巧緻にして甘美、第一期・恩田作品を特徴づける要素のすべての要素がぎっしり!
去年、発表された『Q&A』で、著者は、この方式にトライしている。
それにしても、昨年の著者は、凄かった。
『Q&A』はじめ、『夏の名残の薔薇』『黄金の百合の骨』『禁じられた庭園』・・・と驚嘆すべき多作ぶりをみせたのである。
もちろん、一作一作のクオリティーは高かったが、本作を読むと、『Q&A』以外の作品も、すべて、この作品が書かれるためにあったのではないかとすら思ってしまう。
鋳型の中に閉じ込められた存在である旧家をはじめ、レトロな舞台設定、人々の記憶の曖昧さとその齟齬、そして、舞台となる場所の風の音や空気の密度でまで感じられそうな描写・・・第一期・恩田作品を特徴づける要素のすべての要素が詰まっているのだ。
デビュー作『六番目の小夜子』『蛇行する川のほとり』『夜のピクニック』に代表されるようなほろ苦く、ノスタルジックで、甘美な空気感が特徴の作品と、『MAZA』『ドミノ』などで見せたマジック的な巧緻さの両刀を使う著者だが、その両刀が、本作で一本の強力な刀になった感がある。
私は、さほどミステリーに精通しているわけではないのだが、おそらく、同作は、ミステリーの図式という面でも、著者の独創が発揮された作品だと思う。少なくとも、「トリック」や「犯人あて」のみがミステリーの要素だと思っていらっしゃる方がいるとすれば、本作は、その概念を大きく打ち破るだろう。
本作には、真犯人を予想するためのヒントが、これでもかというほど、ちりばめられている。
だが、そのヒントそのものが、新たな謎となる。
事件の背後で大きな役割を果たしたと、読む者が、そして、登場人物たちが予想する人物の存在が、ある時は濃くなり、ある時は薄くなり、さまざまに色合いと形を変え、変奏曲を奏でるかのように、心の内で鳴り響く。
さらには、事件そのものの謎に、最終的にその謎の真相を知った人物にまつわる謎が絡む。
異なる階層にある謎が交錯し、読者は、最後までひきつけられ、翻弄される。そして、読み終わったあとも・・・
至極単純な言い方なのだが、謎がわかっても、結末がわかっても、何度も繰り返し、読みたくなる一作。小説ってすごいなぁ~と思える一作。
恩田陸ファンならずとも、ミステリーファンならずとも、ぜひ手にとっていただきたい。
この本を買いたい!
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