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現代感覚の妙手の「泣き系」短編集 『約束』(2ページ目)

直木賞作家石田衣良の最新短編集喪失の深い哀しみから顔をあげる人々を描いた珠玉作7編。ひねくれ者でも泣けます。その理由は・・・

執筆者:梅村 千恵


■緻密な外面描写の積み上げが「感動」を支える
 さて、喪失の深い哀しみから立ち上げる人々を描いた7編の短編を集めた本作には、「絶対泣ける」という謳い文句がついている。率直に言おう。私は、「こんなイイ話で泣けないヤツは冷血漢」的な無言の押しつけが苦手である。だから、この作品を読む際にも、涙腺はがっちりロックして臨んだ。だが、表題作の中段あたりでそのロックに綻びが生じはじめ、大手術に臨む孫への気持ちを込めた小さな石を遺し、不帰の人となる老人が登場する『ハートストーン』あたりで、涙腺が決壊してしまった。私のようなひねくれ者にもラストの感動を真っ直ぐに伝える、著者の「策」とは何か。それは、徹底した外面描写であると思う。
 
 たとえば、表題作。小学3年のカンタとヨウジがドッチボール大会に出場しているシーンが、カンタの視線で描写される。体操服を汗で透かし、体育館に響き渡る声をあげるヨウジ。「まだまだ、これからだ、3組ガンバ!」――

 行間からシーンが立ちあがってくるかのようなキレのある描写である。このような見事な外面描写の積み上げがあってこそ、ラストが生きるのだ。
世間を席巻している感動作「セ○チュウ」の主人公の出口のない陰気な内省よりも、このドッチボールシーンの方が数倍も泣けるのは、私だけではないと思いたい。

■「大ハズシ」がないのは、さすが。次作への期待も膨らむ

 この著者の最大の魅力は、大ハズシがないことだろう。
個人的な見解だが、私は、10年に一作、超傑作を書き上げる書き手より、3ヶ月に一作、平均点以上の作品を読み出す作家を圧倒的に支持する。それができてこそ、職業作家だといえるのではないだろうか。
率直に言って、私は、この短編集が、著者のベストだとは思わない。倣岸というそしりを承知で言うなら、7割程度の力の入れようで書かれた作品であるようにも思える。だが、間違いもなく良作であり、代価を支払って購入する価値のある作品だ(インタビューなどでご本人にお会いする機会がわりあい多いので、「ヒイキ」が入っているかもしれないが、その分を差し引いても・・・)。
 
 作品自体も十二分に楽しめるし、同時に、著者の次作への期待も膨らむ。そう思わせるのは、この著者が、ノっているからだろう。
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