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アジアン文学に注目! 『ライス・マザー』(2ページ目)

マレーシア出身の新星のデビュー作。激動の時代を生き抜いた一人の女性とその一族をめぐる壮大な物語。全編にあふれる濃密な色彩に注目!

執筆者:梅村 千恵

■神話的イメージに彩られたディテール描写がかもし出す濃密な色彩に溢れた物語

 この物語の最大の魅力、独創性は、テーマそのものというよりディテールの豊かさにあると思う。

エキゾティックな結婚式のシーン、色鮮やかなサリー、蛇や牛や鶏など生物を含めた南アジアの豊潤な自然、ヒンズー教の習慣に則った家族の習慣、ラクシュミーや料理自慢の三男の嫁・ラタが作る料理の数々・・・。対象そのものにも興味をそそられるが、それ以上に、その描写が神話的なメタファーに満ちていて、実に独創的で美しい。

 ラクシュミー一家それぞれの行く末は、おおむね悲劇だと言っていいだろう。女主人公たるラクシュミーはたくましく運命を切り開いていくが、それ以外の登場人物は、どちらかというと、他律的で、運命に流される傾向にある。彼らは、一種の諦念というものに支配されているとも言える。だが、その諦念は、ディテール描写から生まれる濃密な色彩感のせいで、「絢爛たる諦念」とでもいうべきものだと感じさせられる。

 著者は、この作品がデビュー作だと言うが、力のある作家であることは間違いない。
 
 連作ミステリーや大作ファンタジー以外にヒット作が出る確率の非常に薄い翻訳文学。きわめて微力だが、ひそかに「翻訳文学応援隊」自認してる私としては、ぜひとも一人でも多くの方に、日本と異なる風土からしか生まれない、こういう作品を読んでいただきたいと心から願う。

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