■神話的イメージに彩られたディテール描写がかもし出す濃密な色彩に溢れた物語
この物語の最大の魅力、独創性は、テーマそのものというよりディテールの豊かさにあると思う。
エキゾティックな結婚式のシーン、色鮮やかなサリー、蛇や牛や鶏など生物を含めた南アジアの豊潤な自然、ヒンズー教の習慣に則った家族の習慣、ラクシュミーや料理自慢の三男の嫁・ラタが作る料理の数々・・・。対象そのものにも興味をそそられるが、それ以上に、その描写が神話的なメタファーに満ちていて、実に独創的で美しい。
ラクシュミー一家それぞれの行く末は、おおむね悲劇だと言っていいだろう。女主人公たるラクシュミーはたくましく運命を切り開いていくが、それ以外の登場人物は、どちらかというと、他律的で、運命に流される傾向にある。彼らは、一種の諦念というものに支配されているとも言える。だが、その諦念は、ディテール描写から生まれる濃密な色彩感のせいで、「絢爛たる諦念」とでもいうべきものだと感じさせられる。
著者は、この作品がデビュー作だと言うが、力のある作家であることは間違いない。
連作ミステリーや大作ファンタジー以外にヒット作が出る確率の非常に薄い翻訳文学。きわめて微力だが、ひそかに「翻訳文学応援隊」自認してる私としては、ぜひとも一人でも多くの方に、日本と異なる風土からしか生まれない、こういう作品を読んでいただきたいと心から願う。
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