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『永遠の仔』天童荒太、最新作 『幻世の祈り』

『永遠の仔』で日本中を感動させた天童荒太、久々の新作。毎月1冊、文庫で発売という変則刊行。その理由は?内容は?

執筆者:梅村 千恵


『幻世の祈り』
この本を買いたい!


■山本周五郎賞受賞『家族狩り』をもとにした5部作、刊行開始!

 『永遠の仔』で多くの読者に衝撃と感動を与えた天童荒太。『家族狩り』では、山本周五郎賞を受賞するなど、「家族」をテーマにした真摯な作品で高い評価を得ている。そんな彼の『あふれた愛』以来の久しぶりの新作が、当作。『家族狩り』の構想を基にした、長編である。
とはいうものの、この一作だけで、作品の全貌は明らかにならない。文庫による5部作という異例の刊行方式を取っているのである。(S・キングの『グリーンマイル』が確かそうだった記憶がある)。一人でも多くの読者に、けっして楽しいだけではない重い物語とじっくり向き合ってもらいたいという著者・出版社の誠心の現れであろう。

 さて、長大な作品の幕開けとなる本作 家族という病巣にさまざまな形で対峙している幾人かの人物が登場する。

 自身の父親に反発から「良き父」「強き父」であろうとしてきたはずの中年の刑事・馬見原。理想通りに育ってくれた長男の事故死がきっかけで、妻・佐和子は心を病み、娘・真由美は馬見原の独善に強烈に反発をし、絶縁状態となる。完璧だと思っていた家族の崩壊になすすべもなく、ただ日々の営みを繰り返すしかない馬見原。
一方、女子高校生だった真由美が傷害事件を起こした際に、馬見原を責めた児童相談センター勤務の氷崎游子は、父親に虐待されている一人の女児の行く末に胸を痛めていた。妻に去られアルコール依存症ぎみの父親を警察に引き渡し、女児を保護する游子だが、父親に同情気味の男性社会のありように苛立ちと不安を隠せない。
そんな折、游子は、ひとりの女子高生が起こした傷害事件をきっかけに、高校の美術教師・巣藤俊介と出会う。彼も、また、「家族」という病巣にとらわれた人物だった・・・。

 現在、家族のあり方について、さまざまな言説がメディアには溢れている。核家族化や高度情報化の進展を家族の変質に結び付けて、古き良き時代へのそれへの回帰を訴えるもの、拡大への夢をもちえなくなった経済情勢の元、「家族」に象徴されるささやかな幸せの大切さを訴えるもの・・・

 本作も、なんらかの形でこのようなメッセージを発していると予測する方も少なからずいるだろう。だが、それは、かなり違う。
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