政財界も愛す老舗の妙技 神田『尾張家』
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写真はコの字型のカウンター席。まるで屋台の情緒を料亭風にアレンジしたかのよう |
"東京・神田。駅からほど近い裏路地の一角に突如、赤提灯のほのかな灯りと供に老舗料亭と見間違う『尾張家』が現れる。小路に佇むこの店のルーツは昭和2年、まだ現在のようにこの地に一軒も飲食店が無かった頃、先代の父が家庭で愛した味から始まったとは、現在の女将・長江操さん。政財界から芸能界まで多くの著名人に贔屓にされ、今日で81年。
戦後の動乱期を駆け抜けた継ぎ足しの出汁の味はもちろんのこと、すべて手作りで仕込まれるタネや女将の笑顔を求めて今、東京でおでんを食べるならここ『尾張家』という声は、日増しに高まっている。
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写真は先代の父の味を今に伝える名物女将、長江操さん |
奥には個室も覗くが、大きな2つのおでん鍋を囲む20席ほどのコの字型のカウンターは、客と料理人とが至近距離で向き合う空間である。そこでは女将のおでん裁きや煮える鍋の熱、家庭的でほっと落ち着ける受け答えを楽しむことができる。まるで屋台のようなライブ感の中で、熱燗ともに東京おでんの伝統に酔いしれることが醍醐味なのだ。
海の幸、大地の恵み、選び抜いた食材を使って美味を編み出す。「昔から変わらない味。もう勝手知る味なのに、何度来ても美味しい。だから凄い」とはある常連客の弁。『尾張家』のおでん鍋には、女将の人柄とそこに集う客人たちの物語が埋蔵している。