90年代:ヨーロッパ映画のベスト5
TODO SOBRE MI MADRE ALL ABOUT MY MOTHER 『オール・アバウト・マイ・マザー』 |
(1998年/スペイン映画/上映時間:101min/監督:ペドロ・アルモドバル/出演:セシリア・ロス、マリサ・パレデス、ペネロペ・クルス)
・最愛の息子を事故で失ってしまった母親の、死を乗り越える魂の軌跡を描いた感動のドラマです。本作は今の社会が抱える様々な問題を提示します。エイズ、フェティズム、性同一性障害、臓器移植などの登場人物たちは、みな独自の生き方を探しています。これだけ大勢の女性が出てくる映画を私もあまり知りませんが、女性映画の傑作と言っておきましょう。
BREAKING THE WAVES 『奇跡の海』 |
(1996年/デンマーク映画/上映時間:158min/監督:ラース・フォン・トリアー/出演:エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスガルド)
・プロテスタント信仰が強い、70年代のスコットランドの村が舞台で、主人公のベスは、油田工場で働くヤンと結婚します。彼女は、仕事で家に戻れない彼を愛するあまり、早く帰ってくるよう神に祈るとヤンは工場で事故にあい、願い通りに早く戻ってきましたが、寝たきりの上に、性的不能に陥っていました。やがてヤンは、妻を愛する気持ちから他の男と寝るよう勧め、ちょっと頭の弱いベスもまた、夫を愛するがゆえに男たちを誘惑してゆくのです。セックスと宗教を同一線上にみせる不思議な作品ですが、トリアー演出はファンタジックなラストも含めて素晴らしい。その後のトリアーは、傑作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ドッグヴィル』を作り上げることになるのです。
THE REMAINS OF THE DAY 『日の名残り』 |
(1993年/イギリス映画/上映時間:134min/監督:ジェームズ・アイヴォリー/出演:アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームズ・フォックス、クリストファー・リーヴ、ヒュー・グラント)
・一人の侯爵(J・フォックス)の忠実なる執事が、自らの仕事に完璧を成すため、女中頭への恋心を断ち切り、老境の父に侯爵の身の回りの世話ができないと知ると情け容赦なく掃除係に格下げしてしまう、そのストイックな姿を冷たく描ききります。彼は自分独りきりになるとそんな己を呪うのです。素晴らしい物語に多くを負っている観はありますが、ジェームズ・アイヴォリーのスタイリッシュな演出に唸ってください。
BITTER MOON LUNES DE FIEL 『赤い航路』 |
(1992年/フランス=イギリス映画/上映時間:140min/監督:ロマン・ポランスキー/出演:ピーター・コヨーテ、エマニュエル・セニエ、ヒュー・グラント )
・エロティックな秀作として『ダメージ』とで悩みましたが、ロマン・ポランスキーのフェティズム炸裂の本作を優先しました。ナイジェルとフィオナは、夫婦の愛を確認する為にイスタンブール行きの豪華なクルーザーによる旅に出掛けます。そこでナイジェルは車椅子のオスカーと知り合い、パリに住む作家オスカーはナイジェルに、自分の妻であるミミとの関係を語り出すのです。彼女は、背徳の香りがする二人の性生活に嫌悪感を抱きながらも好奇心にかられ、毎夜彼の部屋でオスカーとミミの過激なセックスの秘密を聞かされて行くのです。ポランスキー監督は、愛というものは性的な欲望の虜へと堕落し得るもので、精神的、肉体的な残酷性へと変貌するものだという事を、緊迫感を持って見事に映像化させています。
THE BEAUTIFUL TROUBLEMAKER LA BELLE NOISEUSE 『美しき諍い女(うつくしきいさかいめ)』 |
(1991年/フランス映画/上映時間:237min/監督:ジャック・リヴェット/出演: ミシェル・ピッコリ、エマニュエル・ベアール、ジェーン・バーキン、マリアンヌ・ドニクール)
・1991年カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞した作品ですが、エマニュエル・ベアールのヘアがワイセツか芸術かで物議をかもした作品でもあります。本編の4時間近い長さは、観る者に辛さを味わわせ、それを心地よくさせるというマゾ映画でもあると思います。バルザックの「知られざる傑作」を原作に、自らの最高傑作“美しき諍い女”を描こうと妻をモデルにするも完成直前に破棄してしまうのです。そして10年後。彼の前に、若いモデル、マリアが現れた事から彼は再び“美しき諍い女”の仕上げにとりかかるのですが……。昨年、傑作『ランジェ公爵夫人』でびっくりさせてもらったリベット監督の最高作品でしょう。
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