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「男を破滅させる女」ファムファタール考(2ページ目)

ファムファタール=「運命の女」。転じて、魔性の女性、妖しい魅力を持った女性という意味合いで使われているようです。そこで、男を破滅させたオソロシイ女性を映画から探ります。

執筆者:中野 豊

過去の栄光に酔いしれる大女優のナルシシズム
『サンセット大通り』

サンセット大通り
1950年/アメリカ映画/上映時間:100min/ビリー・ワイルダー監督作品『サンセット大通り』
プロローグ、プールに浮いた男の死体。この男こそファムファタールの餌食となった売れない脚本家ジョー(ウィリアム・ホールデン)です。

物語はその半年前に遡ります。借金取りに追われたジョーがサンセット大通リの逃げ込んだ邸宅の家主は、忘れられたサイレント映画時代の大女優ノーマ(グロリア・スワンソン)でした。

ノーマは、ジョーが脚本家と知ると「サロメ」を主人公(自分が演じることを前提)にしたシナリオのライターとして雇うと言い出し、この屋敷に住んで仕事をするように命令します。それからというものペットの大げさな葬儀をしたり、高級なタキシードを着せてホームパーティで踊らさせられたり、ノーマ主演の往年の映画をホームシアターで何度も観せられたりでジョーはあきれます。

終盤、ノーマはパラマウントの撮影所へ『サムソンとデリラ』を撮影中のセシル・B・デミル監督(本人が演じます)に会いにゆきます。その後、デミル演出で「サロメ」の主演をすると信じきったノーマが美容に専念したりするナルシシズムとアナクロさに驚愕します。

大きな勘違いをし続けた元大女優に人生を翻弄されたジョーは、嫉妬の銃弾により倒れます。警察が駆けつけライトが照らされた邸宅で、ノーマは「これが本番」とばかりに女優を演じ続けます。このラストシーンの恐ろしいこと!
老醜をさらけ出したノーマの大写しの顔はファムファタールの末路と狂気を見せる映画史に残る辛らつなラストシーンです。

BODY HEAT カラダを熱くするファムファタール
『白いドレスの女』

白いドレスの女
1981年/アメリカ映画/上映時間:113min/ローレンス・カスダン監督作品『白いドレスの女』
ジェームズ・M・ケインの小説「倍額保険」の映画化で、ビリー・ワイルダー監督作『深夜の告白』のリメイクとしても知られている作品。

弁護士ネッド(ウィリアム・ハート)は、真夏の暑い公園で見かけた白いドレスの女マティ(キャスリーン・夕ーナー)に一目ぼれします。やがて二人は求め合い、クーラーもないウインドウ・チャイムの鳴る屋敷で愛し合い、その後も逢い引きを繰り返すうちにマティの夫が邪魔になってきます……。

マティが何故ネッドに近づいたのか? 出会いからマティの夫殺害までは遺産目当てであることがわかりますが、私利私欲でどこまで「愛」を演じることができるのでしょうか? 逢い引きを重ねるうちにマティはネッドを「愛しはじめた」かのように観客は感じることでしょう。

終盤、良心の呵責からマティは自殺します……。
しかし、お話はここでは終わりません。こんなに悪い女には映画でもなかなかお目にかかれません(驚きのラストはご自身の目で確かめてください)。


◇今回選んだ映画の中のファムファタールたちは極度のナルシストです。他者を道具のように利用し、自分の価値観がこの世のすべてだと考える女性たち。現実にいたらオソロシイです。
教訓:絶世の美女がポルシェから手を振っても、私たちはいつものペースを乱さないようにしましょう。そして自分の背後に誰か居るのかどうかも確認したほうがよさそうですね。


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