さわやかなシャキシャキ・ギター音
研究生:
「BARBiE BARBiE」のサウンドって、基本的には「ロボットハニー」時のモードがベースになっているようです。よく聴くとアレンジの構成に共通点が多い。 ただし、ベース音は「ロボットハニー」よりも遥かにバウンシー。そこがよりハウスっぽいニュアンスを生んでいる要因ではないでしょうか。
さらにメロディも、スーッと流れていってしまうようで、サビには印象的なフックをしっかりと設けてある。最近のSaori@destinyサウンドでも顕著な、いわゆる“Terukadoさん節”は絶好調です。
先生:
「ロボットハニー」の方がストレートな感じですが、確かに同じ系列ですね。
博士:
一発大ヒットすると同じ路線がしばらく並んだりしますが、これは同系のサウンドを被せてきて一気に印象付けようと言う狙いかもしれませんね。 一瞬はっと思う印象的なイントロが、なかなか挑戦的です。
研究生:
そして、イントロ箇所などでラインフレーズを奏でているギター系のカッティング音は、かなり興味深く感じました。
ED BANGERやKITSUNE系の楽曲の歪みサウンドは、ザクザクと刻まれ、ズンと響きもする低音や、ビキビキした高音が特徴。レスポールやSGタイプギターのようなハムパッカー系です。中田プロデューサー楽曲の歪みサウンドも、基本的にはこちらの系統ですし、ニューエレクトロの代名詞的サウンドといえばこの音色。ハードロックっぽい、ビッグなフレイヴァーを感じさせたりするのにもピッタリなヘヴィさです。
ところがAiraちゃんサウンドのギター音は、むしろ軽いタッチでシャキシャキとしている。そのカラリとしたフレイヴァーは、ストラトギターやテレキャスターで聴けるシングルコイル系。ロックンロールやニューウェイヴ系ではお馴染みの音色です。 そしてこの音色使いは、現在、「エレクトロ系」「テクノポップ系」で括られるアーティストやアイドルではあまり聴かれない類のサウンドかと思います。
博士:
その理由は、おそらく製作環境にもあると思いますよ。 エレクトロ系でギターを使う場合、とりあえずギターらしく鳴って欲しいんですよ。テクノ系作家は別にギターで新しい事する気はなく、一つの世界観の象徴として誰が聞いてもギターって感じが使いやすいんです。
その点、最近のシンセには結構ディストーション系の良い音が入ってるんですよ。ほとんどホンモノと区別付かない・・・「エレクトロワールド」なんかもおそらくシンセでしょ。逆に軽いカッティング系ギターはシンセで出しにくく、単に音を出しただけじゃ全然ギターに聞こえない~確かなアレンジ力が必要なんです。普通この再現に時間を労するなら他のことやっちゃうんです。その点アレンジ全般を見ても、Terukadoプロデューサーのアプローチはセオリーに忠実ですね。 楽器を良く知った手堅い音作りをしてきます。
研究生:
軽やかでシャープな音色でシャキシャキと刻まれていくラインフレーズは、さわやかな疾走感も演出しています。 Saori@destinyにも共通するTerukadoさんならではの“突っ込み気味”のグルーヴにぴったりハマっていますね。 「ロボットハニー」がDJプレイで使われた時も、あのカッティングフレーズに反応している人は多いです。
そしてこのギター音には、フェンダー系に必須の“音の芯”がきちんと存在している。だから、とてもグルーヴィに鳴らされています。素人の僕の耳からすれば、一聴しただけだとシンセで作った音とは思えない。Terukadoさんの手練のスタジオワークの賜物だなぁと、本当に感心させられました。
先生:
逆説的に言えば、あの絶望感のある歌詞で、さわやかなカッティングフレーズのガーリーハウス・サウンドは救いになっているじゃないかと。あれで、どろどろのダークのサウンドだったら・・・かなり落ち込みます。
研究生:
「エレクトロファンタジスタ」であるAiraちゃんですから、これからも楽曲ごとにサウンドは変化していくでしょう。 けれども、「カラフルトーキョーサウンド No.9」や「チャイナディスコティカ」、「Valentaine Step」、そして「ロボットハニー」などで取り組まれてきた、“Airaちゃん的ガーリーハウス路線”の基調は、このシングルのタイトルチューンで一旦確立できた。そんな第一印象も抱いてしまうほど、太い幹を感じさせてくれる快心の一曲だなという印象です。