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A Personal Artists Guide “The Roots Of B ! ” パブリック・エネミー

東海岸のストリートが生んだ危険なリリシスト集団、パブリック・エネミー。まさに「公共の敵」と名づけるそのグループの謎に密着。第15回 [パブリック・エネミー]

執筆者:田中 徹夫



(15)[ PUBLIC ENEMY ]


 パブリック・エネミー。

 ヒップホップ界最大の異端児にて、ヒップホップとポリティカル・ムーヴメントを密接に結びつけたグループ。

 何故彼らが?ヒップホップ界最大の異端児?と言われたのか。

 それは<ネイションズ・オブ・イスラム>という政治組織に所属していたリーダーでありメイン・アクトであるチャックDの雄叫ぶメッセージやリリックスの端々に政治的なメッセージが込められていた事に起因していた。



 彼らは、マルコムX の台詞をサンプリングし、ルイス・ファラカーン師 の教えをリリックスに導入し、“Don't Believe The Hype!”とメディアを攻撃し、“Fight The Power!”権力に立ち向かえとアジテイトした。

 80年代、 ジェシー・ジャクソンが黒人初の大統領選に挑み、デイヴィッド・ディンキンズがアフロ・アメリカン初のNY市長選に当選、マイケル・ジャクソンやライオネル・リッチー等のアーティストは“USA FOR AFRICA/We Are The World”に参加し飢餓に苦しむアフリカの子供の救済を訴える...など、ブラック・ピープルが積極的に政治に目を向けた時代背景に呼応するかのように彼らの発するポジティブなメッセージは音楽というエンターテイメントから抜け出し、そしてまた音楽ファンだけに留まらず多くの民衆に政治活動の一要素として好意的に受け止められた、そうした幸運が彼らの存在理由とその後彼らが向かうべき方向を決定付けたのである。

 そしてまた彼らを全世界的にメジャー化させたもう一つの要因が、ある映像作家とのコラボレートにあった。

 それは常に俯瞰的な視点で黒人達が現実として味わってきた苦悩や迫害の史実を映像に刻もうとしたアーティスト、スパイク・リー という新進気鋭の映像作家とのコラボレートであった。

 ブラック・ピープルの自立を促しその存在を再確認させようと目論むスパイクの映像作品とPEが爆発させる強烈なメッセージとのコラボレートは、黒人達の全代表たる代弁者としての頂点を極め、一躍時代の寵児として彼らを祭り上げる原動力となったのであった。

 ラップ・カルチャーの創世記、そのモチベーションは?俺様節?であり「ラップは俺たちが作った!」や「俺こそがNO.1ラッパーだ!」との自画自賛言動や、?敵は我が同朋に有り?としたビーフが主流だったラップ・シーンに、「立ち向うべきは敵は国家であり社会である」という政治的思想や黒人としてのアイデンティティーを高らかに主張する哲学的思惟に基づいたメッセージを芽吹かせた事、これこそが彼らを異端とする所以なのである。

                  ~~~

 そしてまた彼らの揺ぎ無き魅力とは、それら硬派なメッセージを際立たせるビートとトラックにも隠されている。

 攻撃的なギターのリフに地を揺るがすような重々しいベース、ノイジーなSE、リズミカルに刻まれるスクラッチ。ハードでタフ、ラウドでクレイジー。
 そうした彼らのサウンドを掌っていたのがプロデューサー・チーム‘ボム・スクワッド’であり、PEサウンドを語る際に欠くことの出来ない重要な要素なのである。



 正直、彼らの出現には本当に度肝を抜かれました。

 どうしても≪音楽≫の範疇として考える事が出来なかったラップ、それ以上に?俺様節?をぶつける姿に「ラップなんてそれだけで世の中の何の役にも立たないモノだから」なんて思ってたところにこの重々しいメッセージがハードに襲ってきたからこりゃ大変!ッてな感じで。

 そしてガイドはPEを境にロック・ミュージックとの決別を決めラップ・ミュージック、ブラック・ミュージック全面支持へと完全に反旗を翻したのでありました。


 ということで、このPEは個人の音楽人生を全く予想していなかった方向に変換させた最重要アーティストとなったことは言うまでもありません。




(次ページに続く)
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