上手じゃなければジャズはできない?
「ジャズを演ってみたいけど、難しそうだな・・・」。ジャズ演奏を始めたいけど二の足を踏んでいる人の多くは、「楽器が上手じゃなければジャズはできない」と考えておられるんじゃないかと思います。その考えは半分は正解、半分は間違い。
確かに一般論として、ジャズミュージシャンは楽器が上手です。ジャズ以外のポップミュージックの場合、楽器の上手下手はあまり強く問われませんが、ジャズミュージシャンの場合、楽器のコントロール能力が低いのは致命的。たとえば、ロックの場合、「レッチリのベーシストは上手い」というときの「上手い」は、あくまでプラスアルファの要素として評価をされているわけです。逆に「キース・リチャーズは下手」という言い方をする場合でも、それはあくまで楽器のコントロール能力を指しているのであって、ロックミュージシャンとしてのキースの実力をどうこう言っているわけではないわけです。
一方、クラシックミュージックの場合、演奏者の楽器の上手下手は、表立って、第一義的に問われてしまいます。つまり、「下手糞だけどすばらしいクラシック演奏家」というのは存在しないわけですね。「表現力」「情感」「音色」「センス」といった評価は、あくまでも「楽譜を正確に音に変える確かなテクニック」に上乗せするものであり、テクニックのないクラシックミュージシャンは表舞台に立つことはできないと考えられるわけです。
さてこのように見てみると、ジャズミュージシャンにとって技術というのはクラシックミュージックと同様、欠かせないものだということがわかる一方で、クラシックミュージシャンのような問われ方はしない、ということがわかります。ジャズの場合、「技術におぼれるな」「テクニックだけではダメ」といった言い方もよくされますし、「超絶技巧派」なんていう形容詞が褒め言葉にならない場合もある。ジャズにおける演奏技術は、ないとまずいけれど、どうもあればいい、というものでもない。このあたり、「ジャズにおける演奏技術の意味」というのははっきりしないところがあります。
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