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その5 MIDI的音楽観とジャズの未来

シリーズ「ジャズ鑑賞のWhere & How」。第5回はMIDIの登場によって変容した音楽観と、ジャズの行方について考える。

執筆者:鳥居 直介

シリーズ「ジャズ鑑賞のWhere & How」。その4 ジャズライブハウスの未来では客とミュージシャンが交流する基点としてのライブハウスの意味を考えてみた。今回のテーマは「MIDI」。20世紀末に登場したこの新たな音楽概念は、ジャズという音楽にどのような光と影を与えたのか。

MIDIはジャズに何かをもたらしたのか?

MIDI入力の様子
MIDIデータは基本的に音の高さ×音の長さで表わされる。写真のように縦軸に音高、横軸に音の長さをとる「キーエディタ」と言われる入力モードがもっとも一般的で、音韻情報を視覚的に捉えることができる。(写真はsteinberg社「CUBASE」のもの)
MIDI(Musical Instrument Digital Interface)とは、通常「ミディ」と呼称され、現在、世界でもっとも普及している、音楽情報のデジタルデータ形式である。MIDIには、音程、音の長さ、音量、アーティキュレーションなど、楽譜以上に多くの音楽情報を書き込むことができ、そのデータを音源となるシンセサイザーなどのデジタル機器に送信することによって、自由に再生することができる。

商業音楽における、MIDIの最大の功績は、そのデータ量の小ささといってよいだろう。録音データに比して圧倒的に少ない情報量でありながら、シンセサイザーをつなげば、曲がりなりにも楽曲を再生することができる。通信カラオケや携帯電話で再生される音楽のほとんどが、MIDIによって制作されたものだったし、ポップミュージックの多くが、その制作過程でMIDIの恩恵を受けている。

しかし、ことジャズに限っては、一般的にMIDIの影響はさほど大きなものではないと考えられている。もちろん、「アコースティック楽器でなきゃジャズじゃない」などという偏狭な意味ではなく、ジャズにいくら電子楽器が導入されたところで、結局のところ「即興」という要素が入ってきた時点で、少なくともリスナーにとってはMIDIの影響が生じる余地はないからだ。MIDIの打ち込みと生演奏の区別がつかないという事態は、ポップミュージックではありえても、ジャズではありえない。

ただ、だからといってMIDIの登場がジャズにもたらした影響が小さかったとは言えないと私は思う。MIDIの登場による「余波」が、ジャズの世界にも十分な強度をもって「光」と「陰」を与えているように私には感じられる。

確かに、MIDIデータそのものが、ジャズ演奏に登場する場面はほとんどない。しかし、MIDIを産み出した発想の根っこにある、音楽に対する捉え方、つまりは「MIDI的音楽観」が、演奏者・リスナーの認識の枠組みに、強い影響を及ぼしているということはないだろうか?

MIDIが人々の意識にもたらした変化とは?
次ページでは、MIDIがもたらした音楽観の変容を検証!
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