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沈黙の聴衆 ライブ鑑賞の「マナー」再考

「Keith Jarrett Solo 2005」会場に、聴衆の鑑賞態度に注文をつける異例の「張り紙」が掲示された。ミュージシャンへの配慮に「行き過ぎ」はなかったか? ガイドが考察する。

執筆者:鳥居 直介

異例の張り紙

キース・ジャレット(Keith Jarrett,1945年~)。マイルス・ディヴィスに見出され、1970年からマイルスバンドのキーボード、ピアノを担当。ピアノソロの完全即興には定評があり、ライブ録音から数多くの名盤が産み出されている。驚異的な集中力から生み出される神がかり的なハイテンションソロが魅力。 「Keith Jarrett Solo 2005」追加公演(2005.10.22)に行ってきました。非常にすばらしいコンサートだったのですが、少々考えさせられる事件がありました。

10月14日以降のコンサートに行った方はご存知のことだと思いますが、コンサート会場にはリンク先のような内容の張り紙があちこちに貼られていました。内容は以下のようなものです(少し長いのですが、転載します。太線はガイドによるもの)。

<Keith Jarrett Solo 2005へご来場のお客様にご協力のお願い>

10月14日に行われた「Keith Jarrett Solo 2005」で一部のお客様による場内の騒音(携帯の着信音、咳やくしゃみなど)により、キース・ジャレットが演奏を中断するという悲しい出来事が起きました。第2部の演奏の途中、キースはピアノの椅子から満員の2,000名の聴衆に向き直ってこのように言いました。

「こうやって演奏するのは、大変ハードな仕事だけれど、静かにしていることは、難しいことではないでしょう?皆さん、どうかWesternize(西洋化)しないで下さい。日本には昔から、瞑想(Meditation)という伝統があります。アメリカには伝統がありません」

キースは、ずっと前から日本の聴衆は静かに自分の音楽を聴いてくれるので、日本で演奏するのが大好きだと言っています。最後の余韻まで聴いたあとに大きな拍手をくれるからです。今回の日本公演でもそのように余韻を楽しんでくれることをキースは望んでいます。

キース・ジャレットの演奏には大変な集中力と静寂を必要とします。又、今回全ての日本公演を録音しております。より良い環境の中でより良い演奏をするためにはお客様のご協力が不可欠ですので、下記の事項をお守り頂くようお願い致します。

1) 携帯電話、ポケベル、時計のアラームなど音の出るものは開演前に必ずスイッチをお切り下さい。休憩時間に携帯電話をご使用になられた後も必ずスイッチをお切り下さい。
2) 写真撮影(携帯電話含む)、録音、録画は固く禁じます。そのような行為があった場合、公演を中止することがございます。
3) 大きなお荷物や上着など、なるべく入り口右手にございますクロークへお預け下さい。
4) 咳やくしゃみなどはハンカチで口元を押さえるなどのご配慮をお願いします。
5) 一旦演奏が始まりますと、自席へのご案内ができなくなりますので、開演後にご来場されたお客様は休憩時間まで扉内でお立ち見して頂くか、扉前でお待ち下さい。扉前にはモニターもご用意しておりますので、場内の様子をご覧頂けます。キース・ジャレットの音楽は即興演奏ですので、曲間というものが予想できず、このような対応をさせて頂いております。尚、休憩時間後も演奏が開始された後は同様の対応となりますのでご了承下さい。

株式会社鯉沼ミュージック

私は実際に14日のコンサートに行っていないので、当日の聴衆の行状がどの程度ひどいものであったのかはわかりません。少なくとも、キースが演奏に集中できない程度には、騒々しかったのだろうし、周囲のお客さんが迷惑するような輩がいたのかもしれません。ですから、キースがそのように感じ、表現したことを責める気は毛頭ありません。キースのような音楽はできる限り静かな環境で聴くべきだし、そのことに客である私たちは協力すべきだと思います。

しかしながら、上記の張り紙にはどうもひっかかるものを感じます。言っている内容は正当ですし、言葉遣いも丁寧ですが、どこか妙な感じがある。特に太線にした部分には不快感を禁じえない。

どうしてこんな張り紙が必要なのか。張り紙の中身よりも、張り紙がされた、ということそのものへの不快感がありました。もしかすると私のように感じた人間はごく少数かもしれません。しかし、ここにはすごく微妙で難しい問題があるような気がいたします。

不快感の源泉はどこにあるのか?→次ページで考察してみます。
Keith Jarrett Solo 2005
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