そうやって舞台との一体感を感じながらも、一方で非常に舞台をクールに眺めることができる。というのも、一つ一つの装置の裏が見えるからだ。
・例えば三段目、判官が師直に斬りかかるのを加古川本蔵が抱きとめるわけだが、正面から観ているときには本蔵は突然その場に現れたかのように見える。
だが桜席からは、本蔵が判官のすぐ後ろの衝立屏風の裏でスタンバイしているのが見える。本蔵役者がスタンバイしているのは当然だと頭では分かるのだが、「本蔵がスタンバイしている」という様子を目の前にすると、ドラマとして、別のことを想像してしまうのだ。
たとえば、
「本蔵はひょっとすると判官と師直の様子を、どこかの時点から伺っていたのではないだろうか」・・・なんてことを。
今までの忠臣蔵とは別の観方が生まれるきっかけとなるのだ。