歌舞伎/歌舞伎関連情報

義経をめぐる人々 義経千本桜 その4(5ページ目)

先月、5月、6月、7月と、東京・歌舞伎座では『義経千本桜』が上演されている。といっても、すべての段を通して上演しているのではなく、他の演目と合わせて、見どころの多い段を月替わりで上演している。

執筆者:五十川 晶子

<吉野山・川連法眼館>

「吉野山」はうららかな吉野の桜に囲まれた舞踊の一幕。忠信と静の道行である。といっても、恋人同士ではなく、主人公の愛妾と人外の物という変わった道行だ。清元と常磐津が八島の合戦の模様を語りつつ、それを忠信が演じて見せるのが見どころの一つだ。

「川連法眼館」は通称「四の切」と呼ばれる。浄瑠璃の四段目の「切」という箇所にあたるためだ。「四の切」というだけで歌舞伎では、狐忠信大活躍のこの段を指す。

この段は非常に楽しい。静の共をしてきた忠信がついに本性を現す。静が鼓を打つと、どこからともなく忽然と姿を現す。舞台装置のしかけと一体となった演技に注目したい。欄干を渡ったり、階段の途中に現れたり、神出鬼没に見える演出がすごい。
また、動物を思わせるしぐさや、間延びした物言いが動物らしくて可愛いのだ。この親を一心に慕う狐を見ていると、義経は確かに肉親の情に恵まれなさ過ぎる。そのぽっかり空いたブラックホールのような心を満たすのは、静でもなく、弁慶でもなく、戦そのものや知盛たちライバルという存在だったかもしれない。

平家の偽首のうち最後の武将・能登守教経が横川覚範に化けて義経を襲うが、この荒法師たちを狐の術で騙して化かしてしまうところも見どころの一つ。いわゆる「化かされ」と呼ばれる場面だ。
ここでは教経とは一騎打ちとならない。改めて再会するという約束で狂言は幕を閉じる。知盛は海底に、維盛は山中に、そして教経とは再会の約束をして。
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