若手役者、それぞれ大活躍の群像劇
しつこいが、友右衛門と数馬。こうなると、もう男だろうが女だろうが、こんな想いの深さを見せ付けられたら、何にも問いませんよ! という細川越中守の気持ちも分かろうというもの。
そんな女無用な芝居に「ずん!」と分け入ってくるのが市川春猿の腰元あざみ。惚れた若衆への想いと、友右衛門への嫉妬のために、吉祥院ならぬ細川の屋敷に火をつける。そう、八百屋お七の世界がうまく入り込んでいる。序盤の浅草寺で、お七のことにさりげなく言及する台詞もあり、わかりやすい。女の嫉妬を細かく丁寧に春猿が描く。
第一幕の物語の発端となる横山図書役で市川猿弥が力を発揮した。根っからの悪人ではない図書が、まわりのやっかみに振り回され、挙句の果ての殺人。一人の人物の中の正義感と弱さ、疑惑、そしてある瞬間に善から悪へと変貌してしまう図書の様子が分かりやすく描かれている。この図書の人間像に共感できるからこそ、この後のドラマが立体的になっていくのだろう。
細川の殿様役の市川段治郎が、大柄を生かして立派。木の簡素な舞台に九曜紋を散らした襖というだけの大道具だが、堂々たる偉丈夫ぶりで舞台がお屋敷に見えてくる。段治郎は「殿様姿もいいなあ」とみとれてしまった。色悪や敵役がいい人だなあと思ってはいたが、こういう美形で腹の太い殿様なら、二人の間を認めてくれるのかも? なんて想像も先走る。
数馬の母と細川の奥方・照葉の二役をつとめた上村吉弥。もう安心して見ていられる。新しい作品の中にきっちり歌舞伎の古典風味を味付けしてくれているところが頼もしい。
印南十内役の坂東薪車といえば、師匠坂東武三郎の芸養子となったばかり。正義感あふれる侍ぶりにホレボレした。図書に疑われ斬りつけられる場面でも、後に二役で家老となって登場する場面でも、爽やかな中にちゃーんと艶があるのだった。
ドキッとしたのが中間宅助役の市川延夫。事件を起こした図書を陰で脅迫する。目が鋭くていい。根っからの悪人ではない図書を脅すという、こちらは本物の悪者。キレのよい色悪なんか似合いそうだ。
クライマックス、火中の宝蔵に駆け出して割腹した友右衛門。火に巻き込まれる場面では場内がまるごと火に包まれたよう。客席にも上からスモークが焚かれ、そのスモークをあちこちから茜のライトが照らす。鳴物は響き、場内に激しく吹き上げられた金色の紙ふぶきにライトが当たってまぶしいくらい。まさに炎上する宝蔵を友右衛門とともに体験することになる。