とにかく、他の多くの歌舞伎作品とちょっぴり色合いが違うのだ。
隈取の可愛い荒事の作品や、華やかな長唄や常磐津の舞踊劇、七五調でスタイリッシュな黙阿弥作品・・・という江戸の年月と人々が練り上げてきた作品とは異なり、伝奇めいたというか、ゴシックロマンとでもいうか、土俗的な匂いのする「古い日本のドラマの原点!」という印象が強かった。現代人が補綴し監修し手を入れているはずなのに、だ。
特に、熊野を舞台とした「道行」「熊野湯の峯」の場は結構ショックだった。可憐な照手姫(てるてひめ)が、足の悪い小栗判官(おぐりはんがん)を車にのせて、何度も力尽きそうになりながら曳いていくその姿はインパクト大。そして直視してはいけないような、聖なるもの、不可侵なものを、その二人の姿に感じてしまった。
若い娘が牛車を曳いたり、笹を曳いたりという構図は、歌舞伎が好んで使ってきた題材というが、やせ衰えた重病の男を板に乗せて、非力の女がひたすら引っ張る・・・。日本のロードムービーの元祖とでも言おうか。
時代物の華やかさに、碁盤乗りや大立回り、宙乗りと、歌舞伎らしい観どころはたくさんあるにも関わらず、この物語の底の底に説教節の時代の匂いが流れていて、その匂いを損なわずに、かつ多くの見せ場をアップテンポで見せてくれるのが、この作品の最大の魅力かもしれない。
今回は猿之助は出演せず、一門の若手が中心となって、このドロッとした、かつファンタジックな小栗判官の世界を繰り広げていくのだから、また違ったテイストが加わるのだろう。
華やかな時代物スペクタクル・ロマン。 |