歌舞伎/歌舞伎関連情報

「歌舞伎に恩返ししたくて」 イヤホン解説・おくだ健太郎さん

歌舞伎初心者の強い味方、イヤホンガイド解説者のおくだ健太郎さん。NHKの歌舞伎解説でもおなじみです。「歌舞伎には並々ならぬ恩がある」というおくださんへインタビュー。

執筆者:五十川 晶子

歌舞伎を観る際にイヤホンガイドのお世話になったことのある人は少なくないだろう。演目の進行に合わせて、せりふや状況をわかりやすく解説してくれるし、劇場内の店舗で気軽に借りられるのが便利でうれしい。演目によって解説者も変わるため、内容や口調のバラエティがまた楽しい。
おくだ健太郎さん(38)は現在約10人いる朝日解説事業のイヤホンガイド解説者の一人。ソフトな語り口に現代的な視点をさりげなく盛り込む口調に、安心感と親しみを感じさせてくれる解説者だ。NHK『歌舞伎鑑賞入門』などの番組でご存知の方も多いだろう。まずはイヤホンガイドの解説という仕事について聞いてみた。

●「1日20分」。それが解説原稿作成のちょうどいいペース。
劇場から次月公演の上演台本が手元に届くのが前月中旬ごろ。そこから解説者の仕事が始まる。
「同じ演目の前回のビデオを取り寄せて、どういう間合いでしゃべっていくか、ストップウオッチ片手に時間を計ります。そして何を話すかを書いていくんです。その文章に一つ一つ番号をふってA4のルーズリーフの片面に書いていきます。その対面のページは余白として残しておくんです。一方で上演台本の方にも同じ番号をふっていく。キュー(進行)のための台帳ですね。現在はテープではなくてMDへ録音するわけですが、マイクの前に原稿を書いたルーズリーフのバインダーをおいてしゃべっていくわけです。修正や追加などあれば、白くあいていた対面部分に書き込んでいきます。さらに舞台稽古にあわせて、録音したものの修正や調整をしますが、初日以降も訂正が必要なら随時調整していきます」。

原稿を作りMDに録音し、実際に舞台に合わせて流されるまでに何段階ものプロセスを踏む。同じ演目が上演されることが多いわけだから、前回のMDを使えるのではないかと思うのだが、基本的に使いまわしにすることはないという。つまり毎回新しい解説原稿を起こすわけである。

「一つの演目が大体2時間とすると、一つの解説の原稿を仕上げるのに約1週間ほどかかります。というのも、僕は解説の原稿は、1日に20分間分以上は作らないことにしてるんです。ガイドを10年間やってきて自分なりに分かってきたペース配分なんですよ」。おくださんだけの「秘策」という。
「何か集中してバーっと仕上げるような内容の仕事じゃないと、僕などは思うんですよ。実際の舞台の時間の流れってもっとゆっくりと豊かな時間だし、もちろん僕自身の集中力とか、そういうバランスを考えての分量なんです」という理由になぜか納得してしまう。もちろんこれはおくださんの手法。他の解説者にはそれぞれ独自のやり方があるという。

現地へ行くのがおくださん流
一度でもイヤホンガイドを使ったことのある人には想像してもらえるだろうが、解説の内容は実に多岐にわたる。演目の主なストーリー、時代背景や芝居の約束事、出演している役者の屋号や彼らに関する話や代々の芸談、衣裳や舞台美術・音楽など、舞台の邪魔にならないようにさりげなくさまざまな情報が盛り込まれる。解説者のちょっとした情報が「へえ!」という観客の関心につながることも少なくない。解説者の腕が問われる部分でもある。
おくださんならではのこだわりは。
「僕は芝居に描かれている現地へ行くのが好きです。一番遠いところでは(『平家女護島』「俊寛」の舞台・鬼界ガ島)硫黄島まで行きました。時間のあるときはできるだけ出かけたいんです。というのも、よし現地を見たぞという「ハラ」ができる。『ドコソコという場でございます』と言うときに、その場や世界を知った上でお届けしたい。現地へ行ったということを解説で言わない場合もありますから、そのことがどのくらいお客さんに伝わるかはわかりませんが」。



おくださんがいつも仕事場として使うという静かなカフェでお話を聞いた。
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます