今回の発表で永山会長は「世の中不安定でどうなるかわからない」「政治も経済も不安」「日本は混乱していて……」という一連の言葉を繰り返していました。そんな世の中だからこそ「松竹は、歌舞伎はこれでいくんだ」という覚悟を示したかったようです。
また同時に”歌舞伎の存続”にも言及。興行が活発に行われるということは「歌舞伎の裏方・大道具や小道具、床山など、彼らの仕事場を確保する」ことを意味するわけで、こういった歌舞伎のしくみを存続させるには「スターが必要」「襲名や追善興行で芸の引継ぎが必要」と、襲名のビジネス面での必要性を強調しました。
歌舞伎の裏方も実は伝統の技を代々継承してきた職人の世界。役者同様、興行を通じて次世代を育て、舞台を支えるための大切な技術を次世代へと伝えていく使命があります。
少々脱線しますが、しっかりした興行計画が生活の糧と直結するのはなにも歌舞伎の世界だけではなく、実演家が存在する業界に共通の話。だから現代演劇の舞台の裏方さんたちにも同様のことがいえるんです。おおざっぱに言ってしまえば、経済不安は演劇活動の裏舞台や根っこの部分からじわじわ侵食してくるわけです。
永山会長は、現在も部分的に行われている東京・歌舞伎座の修復を、2005年以降に本格的に行う可能性も匂わせました。あらゆる面からこの一連の襲名興行が21世紀の歌舞伎を見ていく上で非常に大きな意味を持ちそうです。
十代目三津五郎襲名披露のポスターに「歌舞伎の21世紀がここから始まる」というコピーがあったのは、ここにつながっていたのかと改めて実感した記者発表でした。31日に亡くなった中村歌右衛門は歌舞伎役者の最高峰に君臨していたわけですが、この5つの襲名についてどんな考えを持っていたのか。知りたいところです。
そしてもうひとつ見逃せないニュース――今後インターネットでのチケット販売も計画されているようです。さらに現在電話でのチケット予約は、毎回殺到して非常に不便な状況となっていますが、これも音声自動予約へと移行する模様。時には朝10時にかけ始めて夕方にやっとつながる、という予約状況が改善されるかもしれません。
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