制作中のアーティストの集中力に学ぶ
『クリムト』は、ウィーン世紀末の画家グスタフ・クリムトを描いた作品。エロスとタナトスをテーマにした作品群は耽美的で美しい。 |
『サバイビング・ピカソ』では、20世紀最大の画家、ピカソの製作風景が、そのままに描かれています。美術史上初めての女性画家を描いた『アルテミシア』では、制作中の集中している様子が、木炭を走らせる音で描かれていました。
『バスキア』での、アンディ・ウォーホールと、バスキアの2人の共同製作中の姿は微笑ましく感じられます。バスキアは、路上でウォーホールに出会い、絵葉書を売ろうとして認められ、世に出ました。ウォーホールが亡くなると、その一年後には27歳の若さで世を去りました。
同じような場面は、『クリムト』にもあります。世紀末の画家、グスタフ・クリムトと若き弟子エゴン・シーレが、2人で落書きをしているのです。奇しくもエゴン・シーレも、クリムトが亡くなった同じ年に、29歳の若さで亡くなりました。このそっくりの2つのシーンでは、集中力と言うより、絵を描くことの楽しさが、伝わってきます。
天才と普通人の間の超えがたい溝
フランシス・ベイコンは、20世紀イギリスを代表する画家。一見グロテスクにも見える魅惑的な作品を生み出した。 |
音楽の分野では、モーツァルトを描いた『アマデウス』があります。この作品では、サリエルの視点から、天才と自分の間にある超えがたい溝と、その嫉妬を描いています。
『愛の悪魔 フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』では、フランシスの愛人兼モデルのジョージ・ダイアーが、2人の間に横たわる才能、感性、教養の差に徐々に蝕まれ、心を病んでいく様子が描かれます。
ピカソと女性との関係に焦点を置いた作品『サバイビング・ピカソ』は、翻訳すると、「ピカソから生還する」。それは、ピカソと関わった女性が、この作品のヒロイン、フランソワーズ・ジローを除いたほとんど全てが、心を患ったり、自殺をしたことを表しています。
愛する女性が変わるごとに、作風も変えるほど、生涯何人もの女性を愛したピカソ。ですが、彼と関わった女性の誰一人、最後までの幸せは貫けなかったわけです。
フランソワーズ・ジローひとりが、なぜ心を患うこともなく生き残ったのか。それは、彼女もピカソと同じく、画家だったからなのでしょうか?
天才は人を惹きつけ、愛されます。ですが、天才の相手が芸術家でなかった場合は、その恋愛は、極めて危険になるのかもしれません。天才の方も相手を愛しますが、愛すれば愛するほど、毒気を当てるように、愛する相手を傷つけてしまう場合が、あるようなのです。
サリエルやフランソワーズ・ジローや、ポロックの妻のリー・クラズナーは、天才と同じ職業を持ち、天才との超えがたい溝を自覚していたため、毒を当てられないですんだのでしょうか?
次ページは、天才の秘密と、理想の生き方をしたアーティストについて掲載します。