宝塚での上級生お手伝いはどうやって決まる? メリットは?
宝塚での「お手伝い」メリットは?
まず……。“みんなで助け合って”精神の生徒たち。そばで早替わりをしている人を手伝うのは、上級生・下級生、関係ありません。
着替える場所は学年順だったりするので、おのずと近い学年がそばにいます。同期同士、一期違い……。自分に余裕があれば誰に対しても、たとえ自分が上級生であろうと手伝ってあげるというのは当たり前。みんなお互い様。
ただ出番もそれぞれですから、手伝ってくれる人がそばにいない、衣装部さんだけでは手が足りない、物の移動ができない場合も。
「あの場面の早替わり、手伝ってくれる?」と頼まれたり、気づいた人が「お手伝いしましょうか?」と申し出たり。
上記のような、その公演のみの単発的なお手伝いとは別に“私は○○さんのお手伝い”という、特定の上級生のお手伝いをする下級生がいます。これは誰にでもいるわけではありません。ある程度の学年、出番の多いスターさんに、こうした下級生が付く場合が多いのです。
やはり男役さんの方が多いですね。
どうやって決まるの?
「貴女は○○さんのお手伝いをしなさい!」と誰かが決めるわけではありません。たまに上級生側から「手伝ってくれる?」と頼まれることもありますが、ほとんどが「この人のお手伝いをしたい!」と思った下級生からの立候補。
その上級生を尊敬していて、そばでお手伝いをすることにより何かを学びたいと思ったり、中には入団前からファンだった……なんていう人もいるでしょう。さて、誰かのお手伝いをすると決めたとして……それはいつまで続く?
いつまで?
では……参考までにこんなお話。上級生Aさんは研6。本公演での出番も多く、新人公演でも主役クラスの役。そのAさんのお手伝いに、下級生Bさんが立候補をしました。
Bさんはまだ研1。芝居での出番は2場面だけ、ショーでもプロローグとラインダンスとフィナーレだけ。お手伝いをする時間の余裕は充分あります。2年の時が経ち、Aさんは研8に、Bさんは研3になりました。
Aさんはますます出番も多くなり、スター街道まっしぐら! そしてBさんも、少しずつ出番が多くなってきました。Aさんと同じ場面に出る=同じ時に早替わりをすることも。
Bさんは困りました。「あの場面もこの場面も、早替わりの手伝い、できないわ……」そこでBさんは研1のCさんに「Aさんのお手伝い、いっしょにやってくれる……?」と声をかけました。
かねてより“私の尊敬している上級生はAさん”と言っていたCさんは喜んで了解。
当の本人のAさんも、もちろん了解。 Aさんのお手伝い2代目が誕生したわけです。早替わりはCさんが主に担当することとなり、できる範囲でBさんも。
お手伝いが二人になったという感じです。そしてその後も、3代目、4代目と増えてゆくわけ。
上級生のお手伝いは、あくまでも自分ができる範囲で。自分の何かを犠牲にしてまでお手伝いする必要はなく、またお手伝いされる側の上級生も、決してそれを望んではいません。でも、たとえ自分ができる範囲でも、いい加減な気持ちではできません。一つ間違えれば、その上級生を出遅れさせてしまうかもしれないし、気持ちのいい状態で舞台に出してあげることはできませんから。
自分も舞台に出ているにもかかわらず、ナゼ、お手伝いをしようと思うのか……?
そこには、お手伝いをする労力以上に、返ってくるもの、与えられるものが大きいから。
お手伝いをするメリット
再び、研6のAさんと研1のBさん。 Aさんの早替わりをお手伝いをしながらも、BさんはそばでAさんをしっかり見ています。舞台化粧はアップで見えます。髪型やカツラを変える手順も、衣装の着方も。使っている整髪料もアクセサリーのしかけも、すべてわかります。“どんなところにAさんは気を配っているか?”……そんな、その瞬間を見ていないと感じることのできないこともわかります。見て盗む――。ただそばにいるだけでも、とても勉強になるのです。
見ているだけじゃありません。Aさんが着替え終わりまだ出番までに時間がある時、Bさんを隣りに立たせ鏡越しに……「アイライン、ココまでひいた方が……」などとマンツーマンでお化粧講習。新人公演の稽古場でも、自分のことで精一杯なはずのAさんですが、Bさんに演技のアドバイス。これはAさんの“自分が教えてあげられるすべてのことを教えてあげよう”という気持ち。
それは決して“お手伝いをしてもらっている”云々には関係なく誰に対してでもですが、やはり接する時間の多い下級生には、その思いも強くなるものです。
やがてBさんも上級生になり、お手伝いの下級生が付くようになりました。
お手伝いをしてもらう中、その下級生に多くのことを教えます。その中にはもちろん、Aさんから教えてもらったこともたくさん含まれています。
先輩が後輩に多くのことを教え、やがてそれを受け継いで行くという宝塚歌劇団の伝統。
それは、全員で一つの舞台を創るという意識と、自分が下級生の頃上級生に教えてもらった様々なことへの有り難味を、いつまでも忘れないからでしょう。
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