「虐待」を受けて施設へやって来る子どもたち
乳児院や養護施設などの、いわゆる「施設」で生活する子どもたちは、およそ3万8000人(平成15年 児童養護施設入所児童等調査結果の概要による)で、その入所理由の多くは父母の死亡などではなく、父母による養育放棄や放任、棄児、虐待などの広義の「虐待理由」によるものが増えています。本来、児童問題を扱う場所は福祉事務所と児童相談所(児相)、保健所ですが、児童虐待が社会問題化する中で、これらを連携させ、組織する試みが行われてきました。しかし、自治体本庁が音頭をとり、警察、学校、児童館、教育委員会や民生委員、児童委員などの有償ボランティアを組み込み、その制度は毎年のように変わっていきます。その背景には、虐待発見の取りこぼしが絶えないという反省があると、佐竹さんは言います。
例えば、虐待の疑いが濃厚な家庭を発見したとしても、児相はそこへ踏み込む権限を持ちません。児相が学校の先生に協力を仰いだり、近所の人の協力を得たりするなど、あの手この手のアプローチを取って、ようやくその家庭のドアを開けることができるといった状態です。最終的に警察が踏み込むこともありますが、それまでに踏まなければならない手続きが多く、現実にはドアを開けて家庭に踏み込む前に悲惨な事件が起きてしまう、「取りこぼし」がたくさん報道されています。
虐待致死事件はなぜ防げないのか
2006年10月、京都府長岡京市で3歳男児が父親と内縁の妻から虐待を受け、餓死した事件は、そういった児童福祉システムが機能しなかった例だといわれます。男の子は、父親に犬小屋の上に寝かされるなどしており、地域の主任児童委員から京都府の児相に何度も虐待の通報があったにもかかわらず、児相は対応を怠っていました。扱う案件が多すぎたために見逃したともいわれていますが、これについて京都府知事は異例の陳謝をし、今後は児相に虐待の通報があった場合、48時間以内に安否確認をするという方針を打ち出しました(のちに、京都児童相談所の所長と担当者が戒告、知事ら3人が訓戒処分)。男の子には姉がおり、3月に姉は虐待を受けて養護施設へ保護されていました。姉が虐待を受けて養護施設に行っているのですから、施設職員はそのきょうだいである下の子にも虐待が行われるかもしれないという可能性を考えることができたかもしれません。しかし、担当者が変わるなどして、入所児童の過去の履歴ファイルが見逃されていた可能性があります。養護施設では、親がわかっている場合は週1回の面会が義務付けられているため、そのときに連れられて来ている下の子の様子を意識的に見ることで虐待をうかがい知る機会もあったのに、と佐竹さんは痛恨の思いを隠しません。
通報や過去のファイルが生かされない背景には、財政難からくる人員不足があります。どの児相も、ここ10年間で右肩上がりに増加する虐待の通報への対応できりきり舞い。過労で体を壊す職員も少なくありません。仕事量の多さが負担になり、結局システムが機能しなくなるのであれば、「人員配置をしない自治体には本気で児童問題と取り組むつもりがあるのか」といわれても仕方がありません。