モノグラムは階級を表す?
リスト・ルージュではイニシャルと呼んでいる。シャツの場合文字の高さは5ミリ。2006年秋冬の生地コレクションより抜粋。 |
それなのになぜモノグラムを施すのか? と思ってしまう。日本人の多くはモノグラムを見せることで、「これはオーダーしたシャツだ」というメッセージを送りたいのかもしれない。
ところが欧米ではそんな単純な自己顕示だけではないだろう。モノグラムをいれることは階級を表すといってもいいのだ。だからシャツにいれるのも、シルバーカトラリーに家紋やモノグラムをいれるのも本質的には同じことなのだ。
日本には階級意識があまりないが欧米では根強く残っている。もちろんシャツやカトラリーにモノグラムをいれたからといって、階級が上がるわけではない。
そんなことは誰でもわかっているのだが、魅力に満ちた上流階級(オールドマネー)の古い習慣を摸倣することは、ライフスタイルに美と品をもたらしてくれる。
我々がクリストフルや銀座の和光に行ってカトラリーにモノグラムを刻印してもらうのも、リネンのハンカチーフに刺繍してもらうのも、オーダーしたシャツに刺繍してもらうのも、すべて古い習慣の摸倣なのである。
とくに刺繍に関しては、時間と余裕がある証としてとてもよい趣味である。グレース・ケリーが刺繍を趣味にしていたといえば納得するだろう。
よい趣味をもつということは贅沢なことではないし、安っぽいスノビズムとも違う。
よいシャツ屋とは?
リスト・ルージュではイニシャルと呼んでいる。シャツの場合文字の高さは5ミリ。2006年秋冬の生地コレクションより抜粋。 |
さて、話を戻そう・・・。上流階級の人たちは昔から、シャツやハンカチーフにさりげなく、控えめに刺繍をいれてきたのだと思う。
おそらく彼らのモノグラムはとても小さく(1文字5ミリ程度)、生地と同系色の糸を使うことでさらに目立たなくしていたに違いない。
フランスの老舗シャツ屋はずっと上流階級の人たちを相手にしてきたわけだから、モノグラムの大切さや美しさをよく理解している。
シャツをオーダーした際に相談すれば、どこの位置が最適で、どのくらいの大きさと色糸がもっとも品よく、美しく見えるのかを教えてくれるはずである。
そのアドバイスを怠り、お客の判断に委ねるだけのシャツ屋は一流のシャツ屋ではない。腕のいい職人を抱え、最高級のシャツ地を揃えていても駄目なのである。
トレンド情報なんて二の次でいい。基本となるクラシックな美意識をもっていないシャツ屋は、もっと勉強すべきなのである。
衿にモノグラムを施した男性をこれ以上増やさないためにも、努力しなくてはいけないのだ。
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