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Vick tailor 近藤卓也氏 前編(2ページ目)

Vick tailorに行ってきました。近藤卓也さんが手掛けるスーツの魅力を、手縫い、芯地というテクニックとパーツをとおして紹介! 前編でスーツに、後編では近藤さんにスポットライトをあてます。

倉野 路凡

執筆者:倉野 路凡

メンズファッションガイド

手縫いのこと


Vick tailor
天井が高いせいか、店内は明るいです。作業用のテーブルも白木を使っていて、なんか気持ちいい空間です。アンティークでいっぱいのテーラー&カッターとは対照的ですね。
近藤氏の仕立てるスーツは手縫いの箇所がとても多い。ジャケットなら肩、アームホール、脇、背中、袖など。トラウザーズ(パンツ)なら尻ぐりなど、動きのあるところはミシンではなく手で縫っている。

ミシン縫いに比べて手縫いだと、糸のテンションを緩く調整しやすいため、糸自体に遊びができる。

そのため体を動かしたり、袖を曲げたときに、ミシン縫いにはない着心地が生まれるようだ。とうぜん手縫いは時間がかかるため量産向きではない。

「手縫いだから人の温もりがある」といった曖昧なことはいいたくない。たとえミシンで縫っていても温もりは感じるものだ。ここで考えなくてはならないのは、手縫いの機能性である。


Vick tailor
棚にはぎっしりバンチ(生地の見本帳)が入っています。自然光をうまく店内に取り入れているので、生地の正しい色がわかりやすそう。
近藤氏によると「手縫いはテーラーの基本に立ち返った手仕事なんです。どこまで着心地に反映するかわかりませんが、1ミリほどの糸の動き(遊び、ゆとり)が積み重なって、5ミリとか1センチといった動きに変わると思います」

また彼は生地の厚さや種類によって糸のテンションを変えているという。勘でやっているのではなく、生地の特性を考えて理論的にそうしているのである。

以前、ミラノでアトリエ「サルトリア イプシロン」を構える船橋幸彦氏が帰国している時に、運よく取材する機会があった。

船橋氏が手掛けるスーツも、やはり手縫いなのである。取材中に何度も「甘く優しく縫う」という言葉を耳にした。


Vick tailor
フィッシャー、ホーランド&シェリー、ハリソンズ・オブ・エジンバラ。中央が注目したいEUROTEX(ユーロテックス)のバンチ。
近藤氏にそのことを聞いてみると、「船橋さんのおっしゃる甘くという表現は、糸のテンションを調整しながら優しく縫っていくことだと理解しています」とのこと。なるほど・・・。

余談だがイタリアブランドには、まだまだ手縫いのものが多い。

既製品の身近なところではシャツのルイジ・ボレッリやルチアーノ・ロンバルディ、パンツのアンティコ・パンタローネなどが要所手縫いである。

残念ながら日本ブランドでは、靴や鞄以外ほとんど知られていない。

さて、ここで少し補足しておくと、ミシン縫いが劣っているといっているのではない。

サビル・ロウの老舗だってミシン縫いだろうし、もしかしたら手縫いよりも耐久性があるのかもしれない。

あるいは技術力のあるテーラーなら手縫いのようにミシンを操れるとも考えられる。

どちらにしても仕立て職人の考え方の違いや、お店の規模にも関係してくる話だ。

ここでは手縫いを強調しているが、近藤氏にとってみれば、いいスーツをつくるひとつの手段でしかないのだ。


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