人智を取り入れてさらに輝きをみせる“聖地”
ルートボールと呼ばれる根の部分は手間暇を掛けて加工され、パネル用表皮として使われる |
多くの手作業は熟練技が必要。理論理屈ではなく勘と経験が物言う世界 |
ルートボールは茹でて水中に4日間浸した後、鉛筆削りと同じ要領でスライスされる。それを開くと、左右対称のウッド表皮ができあがる。1台分として24枚の表皮が用意され、うち19枚前後が実際に使用されるという。残りは“万が一”の失敗、および後々のリペア用に保管されるのだ。
ウッドタイプは10種類程度あり、流行りのピアノブラックでもちゃんとウォールナットにラッカーを塗って仕上げている。塗りは5工程に分け、クリーンルームで5時間掛けて実施。加熱し4日間の乾燥の後、サンダーでスムージング。さらにサンドペーパーを使って人の手で最終仕上げとなる。表面を完全に平らにするには、相当な熟練技が必要だ。理論理屈ではなく勘と経験が物言う世界で、徒弟制度が今も生きているのだった。
伝統技をいかに機械に託すか、に挑戦したコンチネンタル系のラインでさえ、現代の標準的な自動車生産工程に比べれば圧倒的に手が込んでいる。それがクルーのやり方と言わんばかりだ。聖地の輝きは鈍るどころか、人智を取り入れてさらに輝きをみせた。伝統を頑固に守りながら。
アルナージ系のビスポークファクトリーとして機能しているマリナー |
顧客の要望であれば極限まで対応するというのがマリナーの姿勢 |
扉を開けるとそこはカスタマー用のショールーム&商談スペースだ。取材時にはステートリムジンのクレイモデルとコンチRマリナーが展示されていた。クレイモデルは劣化が進んでおり、それほど長くは展示されそうにない。見たい人は早めにベントレーを注文して訪問しよう。
豪華なショールームで顧客は綿密に自分の仕様を決める。そして、部屋の奥の扉を開けば、そこはもうマリナーの“夢工房”だ。「スピードやパフォーマンスだけではない世界への挑戦」という基本理念のもと、アルナージ系のビスポークファクトリーとして機能している。特別色やスペシャルトリム、AV&大型モニターシステムといった“フツウ”のカスタムオーダーから、専用チャイルドシート、ストレッチリムジン(何台もあった!)、酸素マスクや水中脱出装置付きの装甲仕様まで、顧客の要望であれば極限まで対応するというのがマリナーの姿勢だ。さらに、ファクトリーの奥には「Special Project Restricted Access」と書かれたトビラ(取材不可)が。その中では真に特別なカスタマー用のモデルが今も製作されているという。
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